日本特殊教育学会 第40回大会発表論文


ヨーロッパにおける障害者用駐車スペースの設置状況と運用

 ○松村みち子(タウンクリエイター)、小宮 孝司(ホンダ学園)、
  水野 智美(福山平成大学)、徳田 克己(筑波大学)

  KEY WORDS : 障害者用駐車スペース  車いす  ヨーロッパ

研究の目的
 日本において、車いす使用者の自動車の免許を取得する割合が年々増加している。しか
し、障害者用駐車スペースに関して、数が不足している、パイロンが置かれている、健常
者が車を停めているため利用できない、などの実態が明らかにされている(徳田ら,2001)。
諸外国では障害者用駐車スペースを利用する権利が保障され、不正利用に対する罰則制度
が確立している国が多い。そこで本稿では、ヨーロッパにおける罰則制度や運用の実態を
明らかにし、日本において障害者用駐車スペースが適正に利用されるための資料としたい。

方法
 あらかじめいくつかの質問項目を作成し、関係機関に質問状を送付したのち、現地にお
いてヒアリング調査および実態調査を行った。ヒアリング調査の主な質問項目は以下のと
おりである。・障害者用駐車スペースの有無、・障害者用駐車スペースの利用対象者(車
いす使用者を同乗させる場合の利用は可能か否かを含む)、・利用する権利のない者がそ
のスペースを利用した場合の罰則規定の有無、・罰則規定の内容、・罰則規定の法的な根
拠、・法制化前の障害者用駐車スペースの状況、・法制化に至るまでの経緯、・取り締ま
り、などである。現地調査は2001年9月9日〜9月22日であった。調査国はドイツ、イ
ギリス、オランダ、フランスであった。

結果
 ヨーロッパのEU加盟国(現在15カ国)では2001年1月1日から欧州駐車カードシステ
ムが導入され、対象者には欧州駐車カード(以下、駐車カードと略す)が交付された。駐
車カードはEUに加盟していない3カ国(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー)
を合わせて18カ国で使用でき、駐車カードを呈示すると各国で定められた駐車特典が受け
られる。また、駐車カードを保持している者が自国以外の駐車システムに加盟している国
に滞在した場合は、その国に住む駐車カード保持者と同等の駐車特典が適用される。各国
で定められている駐車特典は違うが、多くは、駐車時間の延長、駐車料金の免除、歩行者
ゾーン内への駐車許可(時間制限つき)などとなっている。また、各国で駐車カードの対
象者や規則は異なっている。駐車カードの色は青色で、カードの左側には国際シンボルで
ある身障者マークが、右側にはEUのシンボルであるリング状の12の星があり、リングの
中に国名を示す記号がある。
国ごとの規則や運用の実態は以下に示すとおりである。
・ドイツ:ドイツで障害者用駐車スペースの設置や障害者に対する特別駐車証明書の交付
が公文書で明記されたのは1980年である。自動車を利用する人口の増加による駐車空間
の不足が契機となった。障害者用駐車スペースに駐車することが許可されている者は、重
度障害者証明書にaG(歩行に重い障害があり単独歩行が不可能な者)と記されているドラ
イバー、ならびにaGと記されている者およびBl(視覚障害者)と記された者のうち特別許
可を発行されている者を同乗させる者のみ、と規定されている。駐車カードが交付された
者は、住居と職場の近くに個人の障害者用駐車スペース(スペース内に駐車カードの番号
が記されている)を持つことができる。障害者用駐車スペースの不正利用に対しては75マ
ルク(1マルク≒56円、2001年9月現在)の戒告金が科せられる。金額はドイツ連邦全
国同一で、交通違反者記録への減点はない。法的根拠は道路交通規則(StVO)と道路交
通法規等である。

・イギリス:イギリスでは自動車を利用する障害者のための駐車制度を「ブルーバッジシ
ステム」と呼んでいる。ちなみに、駐車カードをブルーバッジと呼んでいる。すでに、イ
ギリス全土で1971年に障害者のための駐車制度は発足していた。駐車カードがオレンジ
色であったことから、「オレンジバッジシステム」と呼ばれていた。2000年4月1日か
らEUが推奨する駐車システムが導入され、オレンジバッジの有効期限が過ぎた者からブルー
バッジに変更している。全ての者がブルーバッジに変更するのは、2003年3月31日であ
る。ブルーバッジを取得できるのは歩行困難な者、目の不自由な者、上肢が不自由な者、
および歩行に困難がある者を同乗させる者である。バッジは車のフロントガラスにパーキ
ングディスク(駐車開始時刻を表示するもの)と並べて掲示する。バッジの不正利用は最
高1000ポンド(1ポンド≒190円、2001年9月現在)の罰金で、バッジの剥奪もある。

・オランダ:障害者用駐車スペースを利用できる者は、国で発行されるLPOカードを所持
している者である。ドライバーがカード保持者の場合は、職場の近くと住居の近くに本人
専用の駐車スペース(スペースに車両番号が示されている)を持つことができる。番号の
示されていない障害者用駐車スペースにはLPOカードを持つ者なら誰でも駐車することが
できる。LPOカードの発行には医療機関の健康診断が必要である。LPOカードを持ってい
ない者が障害者用駐車スペースに駐車した場合、一般道路の駐車違反と同額程度の罰金が
科せられる。

・フランス:駐車カードの発行には医者の診断書が必要で知事が発行する。障害者用駐車
スペースに駐車できる者はGIG (戦争で障害を受けた者)とGIC (重度の障害のある者)
のカードを所有している者であり、それらの者を乗せている場合も利用できる。駐車カー
ドの不正利用は罰金の対象になる。

まとめ
 ヨーロッパでは限られた公共空間を障害者用駐車スペースに優先的に配分しようとして
いる。障害者にはEU加盟国を中心に規格化された駐車カードが交付され、様々な駐車特典
が与えられている。駐車カードの発行には医療機関等の証明書が必要である。障害者用駐
車スペースに駐車する権利のない車が駐車したり、駐車カードを不正利用すると罰則の対
象になる。日常的には不正利用はきわめて少ない。

本稿は2002年9月、第40回日本特殊教育学会で筆者が筆頭で発表した論文である。


表紙に戻る