「私の視点」(朝日新聞 2007年11月21日 水曜日 掲載)


「障害者用駐車場 全国一律の『利用証』制度を」

        都市プランナー   松村 みち子(まつむら みちこ)

 佐賀県が昨年7月、国際シンボルマークである車いすマークを表示した障害者用駐車ス
ペースに、「利用証」を発行する制度を始め、各地に同様の動きが広がってきている。不
正な利用を防ぐためにも、制度のさらなる広がりや、全国一律の制度が創設されることが
望まれる。

 現在、身体障害者手帳を交付されている人は350万人を超える。警察庁の運転免許統
計によれば、身体障害者用に改造された車両の運転免許を取得している障害者は06年時
点で約20万8千人で、00年より1万4千人増えた。障害者用駐車スペースの総数は不
明だが、昨年12月に施行された「高齢者障害者移動円滑化促進法」(バリアフリー新法)
で、路外駐車場がバリアフリーの対象になったこともあって、増加傾向にあるのは間違い
ない。

 ところが、心ない一般ドライバーや物品搬入業者が駐車してしまい、必要な人が使えな
いというケースが目につく。内臓に障害がある「内部障害者」もいて、外見だけでは不正
と決めつけにくい。だれが駐車できるのかという共通ルールもなく、施設管理者は不正の
防止に頭を悩ませている。

 佐賀県が始めた「パーキングパーミット制度」は、明確な基準に基づいて利用証が発行
されるので、マナー違反が一目で分かる。利用証は、歩行が困難な障害者向けで5年有効
の緑色と、けがや妊娠などで一時的に必要な人向けのオレンジ色(有効期間は1年未満の
必要期間)の2種類があり、車内のルームミラーにつるして使う。不正利用の車のワイパ
ーに挟んで注意する「お願い票」もある。
 すでに4千人以上が交付を受け、県と協定を結んだ施設も500を超えた。同県内では
以前から一部の商業施設が独自に利用証を発行していたが、県の利用証は知事名なので説
得力があり、こうした店舗でも不正利用は大きく減っているという。ある店の担当者は
「県の利用証は目立つし、『お願い票』の効果も大きい」と話してくれた。
 各地の注目度も高く、今年6月以降に山形、長崎、福井の各県が同様の制度を設けた。
熊本県も今年度中に導入の予定である。

 ただし、利用証制度には限界もある。法的な強制力を持つ罰則はないので、悪意を持つ
人のルール違反までは防げないのだ。
 私は01年に欧州の障害者用駐車スペースの状況を調べ、その後も調査を続けている。
欧州では欧州連合(EU)加盟国を中心に、公的機関が発行する統一の駐車カードシステ
ムを設けており、不正利用に対しては罰金を課している。国により数千円〜数万円になる。
アジアでも韓国が、またアメリカでも多くの州が罰金の制度を設けている。

 本来であれば、日本も各国にならい、国が共通の制度を作るべきだ。不正の状況によっ
ては罰則の創設もためらうべきではない。

 だが、残念なことに国はこの制度に前向きに取り組もうとしていない。そうした中で佐
賀県の試みは高く評価できる。同様のシステムが全国に広がり、各県で使える共通の仕組
みに育つことを期待したい。

英文はこちら→Unified disabled parking permit system needed


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