「私の視点」(朝日新聞 2005年10月19日 水曜日 掲載)


「障害者用駐車場 不正利用に罰則設けよ」

        都市プランナー   松村 みち子(まつむら みちこ)

 道路交通法の一部が改正され、06年6月からは駐車違反取り締まりが一部民間委託さ
れる。私は警察庁の違法駐車問題検討懇談会の委員として、提言策定までの審議に加わ
り、車いすマークが表示された障害者用駐車スペースの不正利用についても、罰則の導
入を求めたが実現はしなかった。

 同庁の運転免許統計によると、身障者用に改造された車両の運転資格を持つ条件付き
免許の取得者は、04年の時点で約20万6千人いる。00年には約19万4千人だったので、
年々増えてきている。バリアフリー思想の広まりで、多くの場所には障害者用駐車スペ
ースが設けられるようになっており、障害者が車を使って社会参加する機会は今後もま
すます多くなるだろう。

 だが、心ない一般ドライバーや物品搬入業者が車を止めたり、不正利用を防ぐために
看板やパイロンが置かれたりして、必要とする人がせっかくのスペースを使えないこと
も多い。

 私は01年に、筑波大大学院の徳田克己教授らとともに、国際交通安全学会の研究事業
として、2340人を対象に障害者用スペースの利用実態を調査した。

 障害者用スペースへの駐車経験があるとした人は212人で、「ほかが空いていない」
「少しの時間だから」「入り口に近いから」といった理由が、「車いす利用者や高齢者
を乗せていた」という回答を大きく上回っていた。このスペースへの認識も尋ねたが、
「空いていれば使ってよい」と考える人が68人おり、本来は使うべきではない人たちが
駐車している実態が明らかになった。

 不正利用は個人のモラルの欠如が最大の原因だが、どのような人が障害者用スペース
を使えるのかという認識が一致していないことの影響も無視できない。
 「車いすの人だけだ」と考える人もいれば、「高齢者や妊産婦も可」と思う人もおり、
人によって解釈は様々だ。外見からは分かりにくい障害もあり、だれが使っていいのか
という明確な基準がない中では、一概に不正利用と決めつけて注意することは難しい。

 全国脊髄損傷者連合会では、有料道路のサービスエリアなどに設置された専用スペー
スを「車いす使用者用駐車場」という名称に改め、ほかの障害者用としては、新たなス
ペースを設けるよう提言している。だれもが一目で分かる利用基準や表示作りが必要だ。

 01年には調査の一環として、欧州各国の実態も調べた。その結果、多くの国では罰金
や罰則制度を設け、不正利用に対処していた。
 例えば、英国では障害者に「ブルーバッジ」という駐車カードを交付し、カードを持
たない車が専用スペースに駐車すると、レッカー移動したり、車止めで固定したりする。
車止めを外してもらうには、40ポンド(約8千円)の手数料を払わなければならない。

 同様の制度は独仏やオランダにもある。韓国も98年に施行された法律で「障害者車
両標章を表示しない車両を障害者用駐車スペースに駐車した場合は20万ウォン(約2万
2千円)以下の罰金を科す」と定めている。いずれもカードの不正利用への罰則も設け
ている。

 これらの国々では啓発教育もされているが、それだけでは限界があるから法制化に踏
み切ったのだ。日本もさらに積極的に啓発活動を進めつつ、何らかの法令に基づき、
罰則制度の創設を検討するべき時期なのではないだろうか。

英文はこちら→Get tough on abuse of handicapped parking


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