−おもうところ−

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各紙憲法記念日の社説から

毎日新聞を読んではいるものの、「社説」欄に目を通すことはほとんど無い。しかしながら、憲法記念日の社説は、Web公開されている新聞各紙の社説を読み比べることをここ数年の恒例にしている。以前に比べ、各紙の憲法に関する主張が薄らいでいるような気がするが、それでもこの日は”それなりに”色が出る社説ではあるので・・・・・。
■朝日新聞:「憲法記念日に―われらの子孫のために」→リンクl
震災復興、原発事故、地球温暖化、税財政問題など将来の人々の暮らしや生き方をも拘束する重く厳しい選択に直面している今、と現状を分析し、将来世代を含めた「全国民」のために主権を行使していかねばならないと説明。
ところが、今の社会は将来世代どころかいまの子どもたちの「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(25条)まで奪っているとし、まず子どもの貧困率の問題をとりあげ、その原因としてOECDの診断(所得の少なさ、所得再分配のゆがみ)を紹介しながら、再分配の仕組みと雇用慣行を改めようと呼びかけている。そこから、非正規雇用の問題に言及、同じ価値の労働なら賃金も同一にして、正社員と非正社員との待遇格差を縮めることで、親の貧困が次世代に連鎖するのを防ぐことを提起している。そして、将来を担う世代を大切にすれば社会は栄え、虐げれば衰える、そんな当たり前のことを想像する力を、私たちは試されているとくくっている。

■毎日新聞:「論憲の深化 統治構造から切り込め」→リンク
私たちは、即改憲でも永久護憲でもない「論憲」という立場であり、時代が提起した新しい課題を憲法の中でどう位置付けるか、積極的に論議しようというスタンスである、とまず自社の立場を説明。
その上で、
・自衛隊の国際平和協力活動をもっと広く深く展開すべき
・「3・11」体験にもこだわり、国の緊急事態対応が今の憲法で十分かどうか論憲すべき
としている。そして、折しも超高齢化、成長不全、エネルギー危機、安保環境の激変という戦後最大の転換期を迎えていると現状を説明し、どんな国を目指すのかが国民の関心事になりつつある今、国会論戦と草の根議論の連携を深めたうえで、徹底した論憲こそ次の扉を開くことになると述べている。

■読売新聞:「憲法記念日 改正論議で国家観が問われる」→リンク
国家のあり方が問われているからこそ、基本に戻って与野党は憲法改正の論議を深め、あるべき国家像を追求すべきだ、と述べた上で、自民党が第2次憲法改正草案を発表し改めて国民的な憲法改正論議を提起したことを評価している。特に、
・東日本大震災の反省も踏まえ緊急事態に対処するための条項を設けたこと
・政府見解が禁じる集団的自衛権の行使を可能にすることを明確にしたこと
の2点について取りあげ賛同している。
その一方で、参院の権限が強すぎる現状の見直しに踏み込まなかったことを疑問と述べ、そこから現国会の違憲状態にも言及。違憲状態を放置して憲法記念日を迎えたことを猛省すべきだとし、特に解散・総選挙の可能性がとりざたされる衆院は、選挙制度の見直しが急務であると問題提起している。

■産経新聞:「憲法施行65年 自力で国の立て直し図れ 今のままでは尖閣守れない」→リンク
自民党が憲法改正草案をまとめ,みんなの党やたちあがれ日本も改正の考え方や大綱案を発表するなど、憲法改正の動きが広がりを見せつつあると現状を説明したうえで、国の守りが危殆(きたい)に瀕(ひん)していると危惧を表明。
改憲論議の中でも、世論調査で7割の人が憲法に自衛隊の位置付けを明文化すべきだと答えていることを述べ、一方で北朝鮮の弾道ミサイルに対し沖縄本島や石垣島などにも自衛官や装備を展開した対応について一部に反対があったことをあげ、国民の間にある「軍事アレルギー」の克服を課題と述べている。
そして、米国内でも日本の憲法改正や集団的自衛権の行使容認などが、日米同盟の強化に資するという見解が広がっていることを紹介、尖閣への侵攻についても自衛隊がまず対処すべきだと主張。日本人が誇りを持てる国づくりをどう実現できるか、問われているのは日本国民自身であるとくくっている。

■日経新聞:「憲法改正の論議を前に進めよう 」→リンク
自民党が新たな憲法改正草案をまとめるなど改憲にむけた議論を巻きおこそうとしているものの、憲法改正を審議する国会の憲法審査会は本格的に動く気配を見せていないと現状を説明。2011年3月の東日本大震災を経て戦後日本が新たな段階に入った現在、国家の将来像をどう描くかも含め、憲法と真っ正面から向き合い、改憲論議を前に進めるときだと述べている。
前に進まない理由として、国民投票法が制定されたとき付則に追加された「3つの宿題」がこなされていないためと述べ、改憲工事は新築ではなく増改築であるとたとえた上で、いきなり国論を二分する9条問題を取りあげるのではなく、まずは工事しやすい箇所から憲法の館に手を加えるのが現実的な対応と述べ、ひとつは96条の改正条項の改正、もうひとつは緊急事態への対応であると主張している。

■中日新聞(東京新聞):「憲法記念日に考える 人間らしく生きるには」→リンク
憲法論議のなかから、生存を維持する手段としての憲法の生存権の規定である第25条の条文を取りあげている。生存権は肉体的な健康ばかりでなく文化的に生きる権利であると説明したうえで、主権者たる国民はそれを求め、国家は保障の義務があると主張。しかし、人間らしく生きる、その当然のことが危機に瀕(ひん)しているというのに、政治の足取りが重すぎると指摘。
若者の半数が不安定雇用という現状問題から、1929年に発した世界恐慌への米国の対応としてルーズベルト大統領は、公共事業というより実は大胆な失業救済策であったこと、当時ヨーロッパでも使われていなかった「社会保障」という言葉がこのとき法律名として生まれたことを説明。今の日本の政府の主張、社会保障と税の一体改革を進めるというが本音は増税で、社会保障の夢は無策であることを指摘したうえで、今を生きる若者の苦境さえ救えないのに未来の安心など誰が信用するというのかと批判。人間らしく生きたいという当然の権利を主張し、実現させて、「幸福の基礎」を築き直そうと呼びかけている。