第三回:2003年5月2日掲載

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白骨化のエロス

ドクロイノシシの毒牙にかかってはかなく果てた生け贄の女性と、ハエ男の毒液を浴びて爆死したお手伝いさんの間には、いくつかの共通点がありました。前者はぶにゅぶにゅと顔面から溶けて白骨化し、後者は白い粘液をまともに顔に浴びて亡くなったのであり、どちらも女性にとって命の次に大切な顔をドロドロに汚されて落命しています。

       また、生け贄の女性(出演:石原清美)とお手伝いさん(出演:須永かつ代)の容姿を振り返ってみると、前者は痩せぎすとまでは言わないまでもかなり細身で、顔立ちも瓜実顔と言うのでしょうか、顎の方がすぼんだ細面をしています。決して肉感的なタイプではありません。対するお手伝いさんも、顔こそぽっちゃりとした童顔ですが、胸の辺りはどちらかと言えばペチャパイで、やはり未熟な少女の肉体という感じです。すなわち、彼女たちはまだ成熟した「女」になっていない、言わば処女だったわけです。

生け贄の女性はドクロイノシシの牙によって白いブラウスを引き裂かれ(処女膜裂傷!)血を流し、女性にとっての秘所である胸元を晒しましたが、一方、お手伝いさんはハエ男の毒液に塗(まみ)れた顔に恍惚とした笑みを浮かべながら、草むらの中に倒れ伏した時、やはり女性にとっての秘所である股間に白いパンティーを曝け出しました。白いブラウスやパンティーは清廉さの象徴であり、ここで二人の女性は清廉さ=処女性を失ったことが明らかにされるのです。

かくして二人の乙女は、怪人の犠牲となって20年余の短い生涯を終える、まさにその最期の瞬間に「女」となりました。「ドクロイノシシ」や「ハエ男」の物語は、まだ穢れのない乙女が一人の成熟した「女」へと変貌するドラマなのであり、二人の美女は溶解あるいは爆発・消滅するそのプロセスにおいて、女性のエロスを極限までに表現しています。

さて『超人バロム1』においてホネゲルゲに捕らえられ、鞭で打たれたり、足元で爆弾を炸裂させられるなど散々な目にあった挙句、ホネゲルゲに抱きつかれて骸骨となってしまった主婦には、上記二人の処女たちとは異なる成熟した「女」のエロスが感じられます。

この主婦(出演:山口千枝)は海と牧場に近い漁村(しかもバロム1や松五郎もすぐに飛んで行ける距離ですから、東京からも近い。それっていったいぜんたい、どこなんでしょう?)に住む、マサト君とユカリちゃんのお母さんです。

物語の前半では、このお母さんの名前は明らかにされていません。彼女がホネゲルゲにさらわれた直後に、バロム1は「マサトくんとユカリちゃんのお母さん」などと呼んでいましたが、その前にドルゲの使者の踊る骸骨が現れて「秋子を帰して欲しければ八崎へ来い……」と伝え、彼女の名前が秋子であるということを教えてくれます。造型はちょろいが、なかなか気が利く親切な骸骨です。

それはさておき、秋子さんの年の頃は30歳くらいでしょうか。白い丸襟の半袖ブラウス水色のスカートをはき、最初はスカートの上から白いエプロンをしていましたが、買い物に出るときにエプロンを外して、代わりに(海の風で肩が冷えるからでしょうか)水色の半袖カーディガンを着て出かけました。髪の毛をアップにしたまま出かけるあたり、ちょっと所帯じみていますが、頬や顎はややふっくらとしていて、ブラウスカーディガンの半袖から除く二の腕もなかなか肉付きが良く、痩せ気味だった生け贄の女性やペチャパイのお手伝いさんに比べればかなり肉感的な、大人の女性といった感があります。もちろんマサト君とユカリちゃんの「お母さん」ですから、処女ではあり得ません。ここには、すでに性の悦びを知った「女」としての魅力がありそうです。

この日、マサト君とユカリちゃんは海辺であやしい怪人を目撃しました。ドルゲ魔人ホネゲルゲです。二人の子供たちはホネゲルゲを見たことを漁師のおじさんに伝えますが、このおじさんはホネゲルゲの黒いマントに身体を包まれて、あっという間に白骨化してしまいます。ホネゲルゲの犠牲はこのあとも登場するのですが、被害者たちは皆、ホネゲルゲがバロム1に倒されたのち、ホネゲルゲの死骸の灰を振りかけてもらうことによって肉体を取り戻し、生き返ります。ところがこの最初の犠牲者である漁師のおじさんだけは、ホネゲルゲの灰を振りかけてもらえず、生き返ることができませんでした。何とも気の毒なことです。

それはさておき、ホネゲルゲは自分を目撃した(にも関わらず、このことを漁師のおじさん以外には、母親にさえも告げなかった健忘症の)マサト君とユカリちゃんを付け狙います。秋子さんが買い物に出かけたあと、ホネゲルゲとアントマンの集団が二人を襲いますが、間一髪のところでバロム1に邪魔をされます。そこでホネゲルゲは腹いせに秋子さんをさらい、彼女を人質にしてバロム1をおびき寄せ、復讐しようと企みます。卑劣な奴です。

買い物の途中、(人通りの少ない路地裏ではなく、なぜか)漁船が並ぶ砂浜を通りかかった秋子さんは、船の下に丸まった黒いマントを発見します。不審に思った秋子さんがマントをめくり上げようとした瞬間、マントの下から異形の魔人ホネゲルゲが姿を現し、彼女の前に立ちはだかります。船の上からアントマンたちが飛び降りてきて、秋子さんの二の腕を捕まえて、身動きできなくします。ホネゲルゲの鞭の一撃を受けて、気の毒に秋子さんは気を失い、そのままホネゲルゲのアジトである洞窟へと連れ去られてゆきました。

ここで悔やまれるのは、マサト君やユカリちゃんがホネゲルゲのことをお母さんに伝えていなかったことです。せめて一言でも子供たちが黒いマントの魔人のことを言ってくれていれば、秋子さんもその場は信じなかったにせよ、海岸で黒いマントを発見したとき、多少の警戒はしたのではないかと思われます。あとで彼女がホネゲルゲから受ける残酷な仕打ちを考えれば、マサト君たちは親不孝者の謗(そし)りを免れそうにありません。

さてホネゲルゲに誘拐された秋子さんは、洞窟の中に横たえられます。ホネゲルゲは肉付きの良い彼女の左肩のあたりを足で蹴飛ばします。意識を取り戻した秋子さんはすぐさま自分の置かれた危険な状況を把握し(それくらい賢い女性ですから、やはり事前に魔人情報を得ていれば、こんな酷い目に会わなかったかも……)、逃げようとしますが、ドクロの面をつけたアントマンに捕まえられて身動きができません。

 「どうしようっていうのっ?!!」

鋭く叫ぶ秋子さんに対して、ホネゲルゲは「お前もこうなるのだっ!!」と言って、彼女の前に四人の捕虜(やはり漁師さんたちのようです)を引き出します。恐怖と不安に包まれたまま、様子を窺う秋子さんの目の前で、ホネゲルゲは捕虜の一人にいきなり抱きつきます(私だったら女性にしか抱きつきませんが、この魔人は妙な趣味を持っているようです)。ホネゲルゲに抱きつかれた漁師は、身体が次第に凍結して白い霜が付いてゆき、「凍る、凍る、……」と自ら肉体の異常を口にしながら、その場にうずくまります。秋子さんは正視に耐えられず、目をそむけようとしますが、アントマンが彼女の髪の毛を引っ張り、漁師の最期の瞬間を見せようとします。被害者は「うわーっ!!」という絶叫を残したまま、あっという間に骸骨になってしまいます。

「きゃーっ!!!」

 驚くべき光景を目の当たりにして悲鳴を上げる秋子さんの前で、ホネゲルゲは残る三人の捕虜に次々と抱きつきます(やはり変な趣味です)。身体中に白い霜がはった三人の漁師は「凍る、凍る、……」と誰に聞いてもらうということもなく唱和しながら、最後に絶叫を残して骸骨と化してしまいます。

最初の漁師が骸骨になった時、恐怖に戦慄して叫び声を上げた秋子さんは、しかしさすがに賢夫人です。あとの三人が被害にあっている最中、自らはその場を逃れる道を探します(他人を囮にして自分は脱走しようというのですから、なかなか強かであります)。

アントマンの一瞬の隙を突いて、彼女は洞窟の出口の方へと駆け出します。しかし、所詮は一介の主婦、逃げおおせるはずがありません。ホネゲルゲは「逃がすものか!」と言い放って、自分のあばら骨をボキッと折り取ると、そのまま逃げる秋子さんの足元目掛けて投げつけます。あばら骨は彼女の足元で閃光と白煙を上げて炸裂します。ホネゲルゲのあばら骨は爆弾だったのです。しかし爆弾の威力はそんなに強くなく、幸い秋子さんも火傷を負わずに済みました。あばら骨爆弾は単なるこけおどしだったようですが、それでも彼女の脱走を食いとどめるには十分でした。

爆弾にひるんだ秋子さんを再びアントマンが捕捉し、ホネゲルゲの前に引き戻します。ホネゲルゲは「じたばたすると、お前も骸骨にしてやるぞ!!」とわめき散らしながら、鞭の嵐で秋子さんをいたぶります。何ともサディスティックな拷問です。

場面は変わり、例の親切な骸骨=ホネゲルゲの使者のお陰で、バロム1は秋子さんの居所を知ります。マッハロッドでブロロロローッとホネゲルゲの待つ八崎に乗りつけると、そこには高圧電線の支柱に、後ろ手に縛り付けられた秋子さんを人質にしたホネゲルゲが待っていました。

「きゃーっ!!!」

恐怖に顔を歪める秋子さん。いかに賢夫人と言えども、後ろ手に縛り付けられた状態ではどうすることもできません。何度も悲鳴を上げながら、そのままホネゲルゲに抱きつかれてしまいます。「ああっ!何てことをするっ?!」風上に離れていたバロム1は驚いて叫びますが、後の祭りです。「きゃーっ!」断末魔の絶叫の余韻を残したまま、秋子さんは一瞬にして豊満な肉体を失い、醜い骸骨と化してしまいました。

以上が賢母、秋子さんの最期の顛末です。

寂莫たる白骨死体

秋子さんは毒液に汚されて溶けるわけでもなく、処女性を失い命を落とす最期の瞬間に女性のエロスを獲得するわけでもありません。つまり、これまで述べてきた「溶解美女のエロス」がここにはありません。しかしそれでいて、私たちは無残にも骸骨にされた秋子さんに言い知れぬエロスを感じます。このエロスは一体どこから来るのでしょうか?

しかし、秋子さんのエロスについて論じる前に、彼女以外に白骨化して果てた美女たちの系譜を少したどってみましょう。他の女性被害者たちと比較することによって、秋子さんならではのエロスが明らかになってくるだろうと思うからです。

まずは定番の『仮面ライダー』から。

  例えばハリネズラスの回で、夜の原っぱで恋人とデートしていた若い女性が、殺人ビールスの入ったハリネズラスの毒針に刺されて、白骨化しています。この女性、膝上10cmくらいの鮮やかな黄色のワンピースを着ています。ワンピースに包まれた上体はむっちりしていて、スカート部分の下から覗く太腿もなかなか肉付きが良く、なかなか肉感的な女性です。

目の前で恋人がハリネズラスの毒針に刺されて、白煙を上げながら白骨化してゆく様を見せつけられ、恐怖で震えおののく女性に対して、ハリネズラスは容赦なく毒針を投げつけます。
「きゃーっ!」という悲鳴を聞いて、夜警中のお巡りさんが二人駆けつけますが、彼らが眼にしたのは――そして私たちが眼にしたのも――すでに
白骨と化した女性の無残な姿でした。彼女はいったん転んだのですが、必死に立ち上がって、ハリネズラスから逃れようとしたところで毒針を刺され、立ったままの格好で白骨化してしまいました。白骨化してもなお、生への執着を示すかのように暫くその場に立ち尽くしていましたが、所詮、骸骨骸骨筋肉の支えを失って、ガラガラと崩れ落ちてしまいます。先の肉感的な女性が、かくも無残な白骨となって崩れ落ちてしまうことに、我々は言い知れぬ戦慄を覚えざるを得ません。

  続いて『超神ビビューン』のガレキの回で、これもまた若いアベックが禁断の封印を解いてしまい、復活した妖怪ガレキの呪いの霧を吸って、瞬時に白骨化してしまいます。ここで被害にあった女性は、花柄模様のあるピンクのTシャツ白いホット・パンツといういでたちで、なかなか挑発的なファッションです。体型もその挑発に見合うだけのことがあって、二の腕といい、といい、ちょうど良い肉感です。そしてまた、この女性は非常に美しく、可愛らしい。東映特撮物のヤラレ女性の中でも群を抜く美人だと言えます。その美人が、しかしあっけなく白骨化してしまう。この世にこんな哀れで理不尽なことがあって良いのだろうかと言いたくなるくらい、もったいない話です。彼女とせめて一回くらい……、と思うのは無理からぬ欲情だと思います。しかし、ガレキはそんな美人でも容赦せず、あっけなく白骨にしてしまうのです。白骨となっても、恋人とまだ抱き合っている……。美人だっただけに、彼女の最期には何か寂寞とした思いが残ります。


ふたたび『仮面ライダー』に戻って、ウツボガメスの回では、殺人スモッグを吸ってマンションの住人がたくさん白骨化しています。ここには黄色いカーディガンを着た主婦(但しこの人はかなりトウが立っているので、ほとんどエロスは感じられません)や、赤いカーディガンを着た若い主婦、そして白いハイネックのセーターを着た若奥さんが殺人スモッグの被害を受けて溶けてしまいます。

最後の若奥さんは、後にドクロイノシシの生け贄となった、ご存知、石原清美さんですが、彼女はここでもハスキー・ヴォイスで喘ぎ苦しんで、我々を堪能させてくれます。彼女は毒ガスから逃れようと、マンションのサッシ硝子を必死で開けようとしますが、願いも空しく、結局、彼女はマンションのリヴィングで醜い骸骨と化してしまいます。いと、あはれ。

時間的には遡りますが、ピラザウルスの回でも、バスの乗客がピラザウルスの死の霧の実験台になって白骨化しました。乗客の中にピンクの半袖ブラウス赤いスカート、髪の毛はロングというなかなか萌えるいでたちの若い女性がいます。扉を閉ざされ、出口を失ったバスの中で、彼女もまたショッカーの魔手から逃れることはできず、死の霧を吸って白骨化してしまいます。

ところで、ちょっと良く見て頂きたいのですが、バスの乗客の中にもう一人、灰色の制を着た女子高校生と思しき女性がいます。遠目ではちょっと分かりにくいのですが、少し近寄ってみると、あに図らんや、石原清美さんに似ているとは思いませんか?残念ながら、これだけでは彼女だと断定はできないのですが、もし石原清美さんだったとすると、彼女はドクロイノシシの犠牲となってドロドロに溶けて白骨化する以前に、そしてまたウツボガメスの殺人スモッグを吸って白骨化する以前にも、ピラザウルスの死の霧を吸って白骨化していたことになるわけです。まさにクイーン・オヴ・溶かされガール!!!

ここまで見てきたところで、一つ問題を提起したいのですが、ピラザウルスによって殺されたバスの乗客たちは白骨化してもちゃんと衣服を着ていました(撮影的には骨格標本に衣服を被せているだけですが)が、他の犠牲者たちは肉体だけではなく、それまで着ていた衣服も失ってしまい、被害現場にはただ白骨だけが残されています。彼女たちは毒ガスや殺人ビールスに侵されて、身体の内側から肉体が溶けて白骨化したにも関わらず、です。ホネゲルゲに殺された秋子さんもまた、衣服を着ていない状態で白骨化してしまいました。どうして衣服まで溶けてしまうのでしょうか?これではリアリティに欠けるのではないでしょうか?

実を言いますと、私は一連の溶解物の中でも、白骨化というパターンは一番つまらないと考えています。ここでは溶解の表現があまりにイージーなのです。前段で役者さんが恐怖に震え慄き、怪人の攻撃にあって悶え苦しみます。ここまでは萌えるのですが、この後がいけません。白骨化=溶解するプロセスをしばしば素っ飛ばして、もう次のカットでは被害現場に白骨死体(骨格標本)が横たわっている。カットとカットの繋ぎはフェイド・イン(溶明)=フェイド・アウト(溶暗)すらせず、先に述べた通り白骨死体ならば当然着ているはずの衣服も着せていない。これは特撮技術をまったく駆使していない、溶解表現としては手抜き作業のように感じられてならないのです。

そういう観点から見て、ドクロイノシシにおける溶解表現はまさにエポック・メイキングなものだったと思います。生け贄の女性を単に白骨標本に置き換えるのではなく、女性の顔がドロドロと崩れてゆく溶解のプロセスをきちんと表現しようとしています。女優さんには気の毒ですが、「溶ける」というのはまさに液体になって流れることなのですから、女優さんの肉体は粘液や泡、その他の液体に塗れ、濡れなければなりません。単に乾いた白骨標本を転がしただけでは、見ている方はまったく萌えてこないのです。

しかし、そういう「乾いた」溶解表現ながら、私が萌えてしまった女性被害者を最後に挙げておきましょう。

『宇宙鉄人キョーダイン』で人食いゼミ、ダダゼーミに体液を吸い尽くされて白骨と化した若い女性(出演・林美果)です。この女性、髪形はウェーブのかかったワンレンで、頬はややぽっちゃりしていますが、顎はすぼんでいて、顔全体の輪郭が綺麗な卵型を描いています。彼女はカラフルでサイケな半袖の開襟ブラウスに、モスグリーンのロング・スカートを着ていて、なかなかファッショナブルでもあります。体型も細すぎず、太すぎず、総じて美人と言って良いと思われます。彼女は大きな池のある公園で恋人が来るのを待っています。「遅いな……」とかわゆくふて腐れる彼女の足元で妙な羽音がして、突如、地中からダダゼーミが現れ、彼女の首元に噛み付きます。

「苦しい……、た、助けて……」ダダゼーミに首筋を噛み付かれて、彼女は髪を振り乱して息も絶えだえに、草むらに倒れ伏します。しかしダダゼーミは執拗に彼女に覆いかぶさり、首筋にしゃぶりついて体液を吸い尽くします。遅ればせでやって来た(本当に遅ればせで大顰蹙です)デートの相手は、サイケなブラウスモスグリーンのスカートを着たまま草むらにつっぷしている恋人の白骨死体を発見して驚愕します。あの美しかった女性が、見るも無残な骸骨と化していようとは……。

ここでは被害者が白骨化しても、ちゃんと洋服は残っているところが評価に値します。とは言え、衣服はぺっちゃんこで、わざわざ骨格標本に衣服を着させる手間を取っていないことが、ちょんバレです。服の外に出ている頭蓋骨四肢の骨もチョロいし。特撮的に見たら、これも決して合格ではないのですが、これは女性の美しさと被害に遭った時の悶え具合、そして一瞬おいて、次のカットではもうあの美人が白骨化しているという寂寞感。こういったところに、言い知れぬ戦慄とエロスを感じたわけです。

肉体とエロスの喪失

さて、ここまで白骨美人の系譜を辿ってきたことによって、だいたいの傾向は見えたと思います。単純化を恐れずに2点に絞りますと、

@白骨化においては、しばしば溶解のプロセスは割愛される。

Aさらに、これもしばしば、白骨死体の衣装も割愛される。

ホネゲルゲによって骸骨にされた秋子さんも、このパターンに準じていますが、彼女が白骨化する際、洞窟での漁師たちの最期と違って、身体に白い霜が付いて「凍る、凍る、……」という断末魔の言葉を発しませんでした。私などは、なぜ彼女だけが付かないんだ?せっかく白いブラウス水色のカーディガンという、私好みの服装なのに!パステル・カラーのカーディガンを着た婦人に白い霜がはっていって、寒さに震え苦悶の表情を浮かべながら、最後はカーディガンを着た格好で骸骨と化すのが一番萌えるのに!と不満を感じたものでした。

しかし、ことホネゲルゲにおいては、白骨死体が衣服を着ていないのも、秋子さんの肉体にがつかなかったのも、はっきりとした理由があるのです。

すなわち、これは肉体が内側から溶けて白骨化したのではなく、物質が凍結して分解したからです。どうやらホネゲルゲの黒いマントには包み込んだ物体・物質を絶対零度あるいはそれ以下の温度まで冷却する機能があるようで、絶対零度下ではすべての分子運動が停止し、分子が構成していた物体や物質が分解するのです。

この場合、ホネゲルゲに抱きつかれて、まず冷却されるのは被害者が見につけている衣服であることは疑うべくもありません。次いで皮膚肉体であり、絶対零度が最後に到達するのが人骨です。従い、まず衣服の繊維の分子が分解し、衣服から消失してゆきます。次いで皮膚肉体を構成するアミノ酸分子の運動が停止し、分子構造の崩壊が起きます。かくして肉体が消滅します。

では、なぜ人骨を構成するカルシウム、リンなどの分子まで分解しないのか、という疑問が出るかも知れません。しかし、自らも白骨魔人であるホネゲルゲは、白骨になった者に抱きつこうという、そこまで変な趣味は持っていないのでしょう。ですから相手が肉体を失って、骸骨となったところで攻撃を止めるわけです。これが白骨だけが残る理由です。

では秋子さんの場合、どうして身体にがついて凍結することなく骸骨となってしまったのでしょうか?これはテレビ的に言えば、先に四人の被害者で見せたのと同じようなカットを繰り返す時間を節約したか、あるいは女優の山口千枝さんの顔や肌に、に似せた白い粉を塗りたくることを憚ったからかも知れません。

しかし物語的には、この時ホネゲルゲはバロム1との戦いの真っ最中にありました。洞窟では誰の攻撃を受ける心配もないので、ホネゲルゲはゆとりを持って捕虜たちを骸骨にすることができましたが、戦いの場面ではそんな時間的余裕はありません。人質をゆっくり凍結させていては、バロム1の反撃にあう恐れがあります。

さらにこの時、ホネゲルゲはバロム1に風上に立たれて逆上していました。怒り心頭に達したホネゲルゲが自らの能力に威を借りて、か弱い人実の女性に対して最も残虐になったとしても無理からぬことでした。秋子さんに抱きついた時、ホネゲルゲは絶対零度による凍結・分子分解力を最大限に強めました。洞窟で骸骨となった漁師たちとは異なり、秋子さんは「寒い」とか「凍る」とか感じる間もなく、あっという間にカーディガンブラウススカートランジェリー類、そして肉体が分解・消失して、骸骨だけになってしまったのでした。

 

「そんな物理的な説明を聞いたって、秋子さんの白骨化が萌えることの説明にならないぞ」というお叱りの声が聞こえてきそうですね。結論を急ぎましょう。

秋子さんの最期には溶解につきもののドロドロとした液体も出てきませんし、二児の母ということから処女性もまた、とうの昔に失われています。だからと言って、秋子さんが若々しくない、エロスがないというこにはなりません。飛び抜けた美人というわけではありませんが、なかなか理知的な面立ちの、まあ整った面立ちだと思います。二児の母でありながら、スタイルはそれほど崩れておらず、肉感的な、成熟した女性です。

彼女はバロム1を呼び寄せる囮として捕えられ、ホネゲルゲから蹴飛ばされたり鞭の雨を浴びせられたり、そしてまた鉄柱に縛りつけられた状態で、足元で爆弾を破裂させられたり、大変な「痛み」を味合わされています。これは子供番組にはいかにも相応しくない、サディスティックな設定ですが、「痛み」とは肉体があるからこそ痛むのであり、性の悦びもまた、肉体の「痛み」に始まります。サド、マゾ的な性交も詰まるところ、の「痛み」=性の悦びに通じるのでしょう。その意味で、鞭に打たれて苦悶の表情を浮かべる秋子さんは、実は性の悦びに浸っていたのかも知れません。鉄柱に縛りつけられるという「呪縛」もまた、一種の倒錯性交ですが、これもまたに食い込むまで縛り上げるという意味で、の「痛み」=性の悦びを表すものだと考えられます。ここでカーディガンブラウスの上から縄で縛り上げられた、秋子さんの豊満な胸には注意を払ってしかるべきでしょう。

豊かな乳房ハリのある二の腕女性の柔らかさの象徴とも言える「」が、ホネゲルゲの襲撃によって一瞬にして失われます。秋子さんは迫り来る悪魔から逃がれようとしますが、鉄柱に縛り付けられていて身動きができず、結局、ホネゲルゲに抱きつかれて突然の死を迎えます。彼女の最期には何とも無念としか言いようがない、寂寥感が漂っています。この寂寥感は、肉感的な美人が怪人に襲われ、次の瞬間には柔らかみも温かみもない、かさかさとした白骨と化しているという、大きな落差から来るものです。そして、これはいかにも逆説的になりますが、女性被害者が恐怖に震え慄く前景からカットして、すぐに白骨標本の映像につなぐという手抜き手法があったからこそ、この落差が効果的に現れてくるのです。

秋子さんの最期、それは=成熟した女性のエロスの喪失を意味していました。私たちは恐怖に震え慄く断末魔の彼女の姿に、やがて失われるエロスの最後の輝きを見、戦慄し、萌えるのです。

 

(第3章、完。次章は「白い泡の愉悦」)