生贄の夏


作・丸呑みすと様


「どうなってんの?これ」

ステアリングにもたれかかるような姿勢で、大崎沙代子は呟いた。
猫を思わせる大きな眼とスッと通った鼻筋をした顔立ちは色気を感じさせる。

「確かに、開けた所に出たけどねぇ……」

助手席の山内沙紀が応じる。こちらも派手だが整った知的な顔立ちをしている。

二人は都内の同じ会社に勤務する同期入社のOLで、部署こそ異なるがとても仲が良かった。

夏の休暇を利用して、沙代子の車でスパリゾートへ行く処だったが、途中の山道で事故のため、道路が封鎖されており、立ち会ってた警官が言うには、「急ぐならこっちの細い一本道を抜けていけば、開けた所に出る」とのことだったので、言葉に従ったのだが…。

3ナンバー車がギリギリ通れる林道を抜けて出たのはテニスコート一面ぐらいの広場だった。

もちろん目的のクアハウスどころか道路ですらない。

「戻ろっか」

沙紀の言葉にうなずいた沙代子は車をUターンさせ元来た道に入ろうとした。

ガッ、強い衝撃を感じた。

車の右前に、どこから現れたのか一人の男が倒れていた。

「大丈夫ですか!」
「しっかりしてください!」

車から降りて男に駆け寄る二人。

目撃者もいないが、そのまま逃げようなどと考えるような彼女たちではない。
男は撥ねられたと思えない身のこなしで立ちあがった。二人が立ち止まる。

沙代子はライラック色をベースにしたエスニック柄で、膝丈のワンピース。
沙紀はオレンジのキャミソールと白いタイトのマイクロミニで装っている。

男は―東欧系の老人だ―はなんとも邪悪な笑みを浮かべると言い放った。

「新組織発足に相応しい、美しき生贄よ、汝等の血と命を我らに捧げよ!」

男の姿が一瞬に変わった。
ゴツゴツした体躯の直立したカメレオンのような怪人、だがその体表には数本の触手のようなものが突き出していた。

怪人の体表の宿主が一斉に、閃く鞭の如く伸びると、二人の肢体に絡みついてゆく。

沙代子の長い首に絡んだ一本の先端は襟もとから豊かな胸へと潜り込み、もう一本は腰に巻きつき、右の腿に突き刺さる。

沙紀の方は一本がのど元に吸いつき、もう一本は小ぶりだが形のいい胸を二巻きし、先端はスカートの下のキュッと持ちあがった尻に下着の上から張りついた。

「い、いや…」
「苦し…い」


抗う二人だったが、怪人の前には無力だった。

液体を啜る音が広場に響く。
若く、美しいOLたちの表情は苦悶に歪み、張りのいい肌が精気を失ってゆく…。

風を切る音と共に、触手は引っ込んだ。
同時に体液を吸い尽された遺体が倒れると、枯れ木の様に崩れ去った。

「お前たちの血は、我等ゲルショッカーの新怪人の栄養源として活用してやろう」
怪人ヒルカメレオンがうそぶく。恐るべき悪魔の軍団によって、またしても何の罪もない若い女性が餌食となってしまった。