生命体ウィルスの逆襲

作:J.K様

初冬の頃のある夜、都心のとある大手企業のインテリジェントビル30Fのコンピュータールームで、システム部OLの美香(25才)は、ひとり端末機の前で入力業務をしていた。カチャカチャとキーボードの音が広いオフィス内に響いていた。情報処理の量が多く、やむなく残業しているのだろうか?
 いや、違う。実は美香はライバル会社の新製品情報をキャッチするため、極秘にコンピュータープログラムを作成していたのだ(いわゆるウィルスによるネット犯罪)。
美香は若くしてコンピューターの知識は相当なもので、プロフェッショナルのスペシャリストであった。

 美香は社内でも評判の美人で容姿端麗、しかもキャリアウーマン・タイプで、今日もすらっとした、薄いグリーンのツーピースのスーツ・スカート姿で、デスクトップのパソコンや、その他電子機器を使って仕事をしていた。
 そして、美香は健康のためか、「青汁ドリンク」を飲みながら、「寿司弁当」のにぎりをつまんで食べていた。 ところが、その時地震が発生した。規模は中程度のものであったが、一瞬慌てた美香は、うっかりキーボードの左側に置いてあった青汁のコップに左手が触れてしまい、コップを机の下に落としてしまった。
ガチャーン!」 
コップは割れ、青汁が流れ出た。しかし、美香は片ずけるのは後回しにして、仕事を続けていた。仕事が予定より遅れていたのだ。青汁は床を流れて、美香が前に座っている端末機の下の、コンピューターのホストに接続する分配器にまで達し、その中にしみ込んでしまったのだ。

 ショートしてしまって、コンピューターが使えなくなるのか? しかし、順調に作動していた。30分経過し、そろそろ仕事も最終段階にきたその時、ディスプレイの画面がピンク色に発光し、緑色の警告マークが表示された。そのマークの下には「逃げろ」の文字もあったが、動転した美香の目には入らなかった。
何よこれ!?うそーあと少しで終わるのに! 美香はカチカチとマウスでクリックしたり、キーボードのキーを何度も押したりして焦っていた。
 そのころ、美香の足元、黒いパンプスの先にあった、例の分配器から、何かが湧き出てきた!
その物質、それは生きていた。
じゅー、じゅー、じゅー、・・・
全体が
ピンク色で、表面に緑色なのか斑点模様のついた、その生命体は何かアメーバのようで、ちょうど先程流れ出た青汁が逆行して戻ってくるかのごとく、上に向かってきたのだ。あたかも、ネット犯罪者へ逆襲しているかのように。
美香はコンピューターの方に夢中で、それに全く気がつく様子はなかった。「じゅー、じゅー、じゅー、・・・
その生命体を命名するとしたら、生命体ウィルス「ネット・デス・ドリアン」。

美香はそのきれいな脚を組んで座っていた。右脚を左脚の上に乗せていたから、右脚の脹脛が少し膨らんでいて、右足のパンプスは床にはわずかのことで着いていなかった。左足はしっかり床に着いていた。この形が何ともセクシーなスタイルだった。

その生命体は、美香の左足のパンプスのつま先に触れて、間もなくパンプス全体を覆い、右足のパンプスにも飛び散るように付着した。そして、静かに両足のパンプスを溶かしはじめた。
じゅー、・・・
とん!
美香の左足の足の裏がオフィスの床についた。左足のパンプスが溶けて消失したからだ。ほとんど同時に右足のパンプスも溶けて消失した。 
え!? 
美香はこの時点で自分の足元の異常に気がついた。しかし、もはや気がつくのが遅すぎた。その瞬間、
じゅじゅーーーーー!!
その生命体は美香の足首から、脹脛、膝、太ももと、あっという間に這い上がってきたのだ。
きゃあああ!!!いやあああ!!!」 
美香は組んでいた脚を元に戻した。 美香は太ももにへばり付いている、その生命体を、手で振り払おうとしたが、べっとり付着していて、どうにもならなかった。
じゅー、じゅー、じゅー、・・・
生命体はさらに美香の
スカートの裾のところまで侵攻してきた。
いや、いや、いやーー!
 
美香は侵攻を止めるように、というよりも、スカートの中に入らないように、手でスカートを抑えるように懸命に抵抗したが、強力な生命体には抵抗どころか、逆に押し込まれ、スカートたくし上げられてしまった! 「きゃーー!!!
そして、その抵抗が生命体を怒らせたのか、
ピーーーー!
生命体が一瞬
ピンク色に発光したかと思うと、何と、膝から下の脚の筋肉のほとんどと、スカートが瞬時に溶解、消失したのだ!
 ぎゃああーーー!!!だ、だ、だれか、・・・
 
美香は意識を失った。美香の香水の甘いにおいを打ち消すような、強烈な酢のようなにおいが周りに漂った。酸性の強い溶解液独特のにおいだ。
なおも侵攻する生命体の先端部分は、美香の腹部から胸部へと上昇していった。今度は美香が抵抗しないためか、スーツまでは溶解せず、そのまま残しながら、というより、スーツの下から上昇し、スーツの襟元でその姿を現した。そして美香の顔、頭をも覆うところまで侵攻してきた。
う、う、うー・・
それは無意識の中、美香の最後の声だった。美香は死んだ。
ばたん!
美香の死体が生命体とともに椅子から床に転げ落ちた。

ピーーーー!
床に落ちた振動で、また生命体が反応した。すでに美香の全身にへばり付いていた生命体は、膝から上、胴体、内臓、腕、頭と溶解させていった。というより、美香の養分を吸収して成長しているようにも見えた。
じゅ、じゅ、ごくん、ごくん、・・・・
美香の死体はスーツを残し、ほとんど白骨状態になっていた!
 この時、コンピューターの電源が突如切れた。すると、何と、その生命体も同時に動きが止まったのだ。生命体も死んだ。
ネット犯罪者への警告なのか、生命体の逆襲は、ひとりの若い女性の残酷な生贄で終わったのである。

  (終わり)