寒村の惨劇


作・taka様


 某県の奥深くにひっそりと存在する、寒村・大竹村。人口はわずか数十人しかおらず、学校やデパートなども存在しない極めて不便な村であったが、村民たちは皆のんびりとした暮らしを満喫していた。

その大竹村で一番の大家族が、かつて庄屋だったという中里(なかざと)家である。大家族といっても当主の大五郎(だいごろう)とその息子の武夫(たけお)、妻の恵(めぐみ)と娘三人という六人家族で、世間一般の大家族とは程遠いものである。それでも人口が少ないこの村では、一番の人数を誇る大家族であった。

この中里家には、他の家にはない少し変わった習慣がある。それは当主の大五郎が毎晩、家の外れにある小さな祭壇に祈りを捧げ、その年の作物の豊作を祈るというものであった。もし作物を全て収穫しきっていれば、それは来年の豊作を祈るものへと変わる。

その夜も大五郎は夕食が終わると、一人祭壇に祈りを捧げに向かった。

「明子(あきこ)、真奈美(まなみ)、早く宿題済ませちゃいなさい。佳代(かよ)ちゃんはこっちに、ママが歯を磨いてあげますからね」

恵の声に、中学二年生である長女の明子と、小学四年生の次女・真奈美が子供部屋に向かった。まだ六歳の三女・佳代は自分でうまく歯磨きができないため、恵か夫の武夫が歯を磨くのが日課となっていた。

とその時、居間の電気が突然消えた。

「なんだ、停電か?」

武夫が訝しげに立ち上がると、ヒューズを確認するために家の外に出た。突然の闇に怖がる佳代を、恵は優しく抱きしめる。

と、その時であった。

「ぎゃあああああああああああああっ!」

突然、武夫の絶叫が闇の中に響いた。続いて祭壇の方からも、大五郎の悲鳴が聞こえてくる。

「今の声、パパとおじいちゃんの声だわ!」

「私見てくる!ママ、懐中電灯借りるね!」

次女の真奈美が恐れ知らずにも懐中電灯を手にすると、それを振り回しながら家の外に飛び出した。余談ながら彼女はボーイッシュな性格で、髪型は肩まで届かない今でいうショートヘア、着ている服も男の子のように半袖と短パンだ。

「パパ!パパ、どうしたの?」

程なく、真奈美は立ち尽くす父・武夫を発見した。だが真奈美がその体を何度か叩くと、彼はどたっと音を立ててうつぶせにくず折れた。

「パパ!・・・あっ!」

次の瞬間、真奈美は小さな悲鳴を上げた。倒れこんだ父の顔が、茶色い液体となって溶け崩れ始めたのだ。

「大変!おじいちゃん!おじいちゃん!」

真奈美は懐中電灯を振り回しながら、祖父がいるはずの祭壇に駆け込んだ。祭壇の扉を開けると、そこには正座する祖父の姿がある。

「おじいちゃん、おじいちゃん大変なの!」

祖父のもとに駆け寄ってその体をゆする真奈美だったが、祖父はそれに応えることなくばたっと横たわった。そして先ほどの武夫同様、顔が茶色い液体となって溶けていく。

「そんな・・・そうだ!すぐママや皆に知らせないと!」

真奈美はすぐに祭壇を飛び出すと、急いで家に飛び込んだ。

「ママ、お姉ちゃん、大変なの!」

叫びながら居間の障子戸を開けた真奈美だったが、次の瞬間奇妙な光景が目に飛び込んできた。居間には母の恵、姉の明子、そして妹の佳代が勢ぞろいしており、闇の中で横一列にきれいに正座していたのだ。

「ママ!パパとおじいちゃんが・・・!」

母親のもとに駆け寄ってその肩を抱いた真奈美だったが、次の瞬間母の体は仰向けに倒れた。そして父や祖父同様、かつて村一番の美貌と謳われた面影の残る彼女の顔が、みるみる茶色い液体となって溶け崩れてゆく。

「ママも・・・お、お姉ちゃん!佳代!」

隣り合って正座する姉と妹に叫びかけた真奈美だったが、二人はほぼ同時に倒れ伏し、そして溶け始めた。セーラー服と肩まで伸びた黒髪が可愛らしかった姉の明子も、三つ編み姿が愛らしかった妹の佳代も、その顔が原型も留めぬほどにどろどろと茶色く溶け崩れていく。

「ウニイイイイイイイイイイイッ!!中里真奈美、お前がこの家の最後の生き残りだ!」

その時、突如として家の中に怪物が現れた。それは顔全体がウニのようになった、不気味な外観をさらしていた。

「きゃあああああああっ!」

「ウニイイイイイイイイイイイッ!ショッカーのウニドグマ量産計画のために、この村の住民は一人残らず殺す!娘、お前も死ね!」

怪物はそう叫ぶと、左手に生えた鋭いとげを真奈美の体に突き刺した。

「きゃあああああああああああああああああっ!!」

突き刺された真奈美は苦しそうに表情をゆがめると、やがて糸が切れた人形のようにその場に倒れ伏した。ほどなく彼女の体は顔面から茶色い液体となって溶けていき、わずか数十秒で着ていた衣服だけを残して完全に消滅した。

「ウニイイイイイイイイイイイッ!!次を急ぐぞ!」

中里家を全滅させたウニドグマは配下の戦闘員を従え、大竹村を占領するために次の家へと向かった。だが彼の計画は翌日にはショッカーの天敵・仮面ライダーの知るところとなり、それが成就することはなかった。