モーニング・トレインは捕食に

作:丸呑みすと様

「やっぱりかっこいいなぁ」

姉の紀子の視線を木戸猛は追った。
ここは東京駅のホーム。用があって出ていた二人が見ていたのは、紺の制服に身を包み、胸元には
ライムグリーンのスカーフも鮮やかな女性がグリーン車に乗り込むところだった。

「ねえちゃん、あれは?」
「グリーンコンパニオンよ」

グリーンコンパニオンとは東日本鉄道の関連会社の女性契約社員で、主な役割はグリーン車の検札や物品販売である。
20代前半の女性が中心で、綺麗なお姉さんが多いと追っかけのカメラ小僧たちがいるくらいだ。

「さあ、頑張らなくっちゃ」

スカーフを締め直して、グリーンコンパニオン・谷朋子は乗務員室を出た。
東日鉄道東海道線下りの業務が始まる。
朋子は24歳、OLから転職して一年になる。清楚で上品な美貌と豊満な肢体にま
れながらも、驕ることの無い、細やかな気遣いのできる癒し系の美女だ。
ウエーブのかかったセミロングの髪は今は後ろに束ねられている。

乗務員室は車両の最後尾にあり、連結部を通ってグリーン車へ入る。共用部の個室トイレ、洗面所を過ぎて扉を開ければキャビンだ。
今は早朝、乗客はほとんど居ない。
いや、一人だけいる。洗面台のところだ。

「お客様? 御気分の方は大丈夫でしょうか?」

「ああ・・・大丈夫だ、よ!」


男はいきなり朋子に抱きついた。

「な、なにするんですか!?」

振りほどこうとしたが、びくともしない。
男はトイレの扉を開き、朋子を中へ押し込むと、自らも入り、扉を閉じた。
朋子の助けを求める声は連結部の騒音に掻き消されてしまった。

「やめてぇ、嫌ぁっ」

朋子は必死に抗った。痴漢・・・あるいは強姦魔かも知れない。

「二人ほど昨夜戴いたが、こんなところでも“食える”とはな」
男の姿が変わった。
顔全体が巨大な口の化け物だ。

驚愕のあまり、大きな眼が一層見開かれる。朋子がその双眸にこの世で最期に映したのは、迫りくる唇の奥の暗黒だった・・・

ストッキングに包まれた脚がバタつくのに合わせて、紺のタイトスカートに包まれたムッチリしたヒップが揺れる。
すでに朋子の上半身は化け物の口の中だ。

(苦しめ、足掻け、そして悶えろ。それこそが若い女を食う時の最高のスパイスよ)

哀れ朋子の肢体は完全に丸呑みにされてしまった。胃の中で肉と骨と器官が押し潰され、消化液によって分解される。
そして、彼女同様に人生の終焉を迎えた者たちのなれの果てであるヘドロと化すのだ。

昨夜から、今朝にかけて若い女性が相次いで失踪した。
この事件とグリーンコンパニオンの失踪を関連付けるものは少なかった。

それがドルゲ魔人・クチビルゲの仕業と知る者も・・・

(おわり)