水溶液化された女性
作:J.K様
秋晴れの昼下がりの街角、東京・銀座のメインストリートからは少し離れた裏通り。
学生、アベック、サラリーマン、OLなど多くの人々が歩いていた。
すると、とある交差点のすぐ近く、小さな公園内にある低木の葉のすき間から、歩道を歩く人たち、信号待ちする人たちを観ている目があった。ハリネズミ・アンノウン「エリキウス・リクオール」だった。
「ハアー、ハアー、・・・ハアー」」
アンノウンは今まさに獲物を狙っているようだった。
若いアベック、中年の営業マン、専門学校にでも通っているような学生、デパート帰りの主婦、・・・。そして、身長165センチ程度の若い女性の顔が見えた。OLのようだった。セミロングの、こげ茶色の髪型、綺麗な女性で、ダークグレーのスカート・スーツ姿、スカート丈はスタンダード、ベージュのパンスト、ヒール5センチ程度の黒いプレーンパンプスを履いていたが、バッグなどは持っていなかった。ちょうど昼時なので昼食に外出しているようだった。そのチャーミングでスタイルのいい女性は近くに勤務する証券レディ、清野麻衣、23才であった。
「コツ、コツ、・コツ、・コツ、・」
同僚の証券マン、宇田浩一、30才といっしょに昼食に行くのか、ゆっくりと歩いていた。アンノウンはその麻衣を標的とした。針山の頭を振って針を麻衣の方へ発射した。
「ビシュッ!!」
その針は麻衣の顔に向けて発射されたのだ!(正当防衛射撃ではない。自発的攻撃だ。)
「!! う・・う、う、う・・あはあ・・」
麻衣の顔の左の頬に撃ち込まれたようだった。その部分が一瞬白く光ったようだった。麻衣は後ろに倒れ込みそうになったが、何とかバランスを保ち、立ってはいた。
目
「ううー、う、・・」
「コツ、・・・、コツ、・・」
急に歩くのもままならぬようになった麻衣も、「何!?」
「・・くううー、顔が・・苦しいー!」
今度は少し前かがみになってふらふら歩く麻衣、
「コ、コツ、・・コ、コツ、コツ・・」 浩一は麻衣の様子がおかしいことに気がついた。
「清野君、どうした?」
「顔が、頭が、苦しい!」
「おい、しっかりしろ! 清野君!」
浩一は正面に公園が見えたので、まずは公園のベンチに座らせようと思った。
しかし、麻衣はさらに激しく苦しみ始めた。
「ああーー!、胸が、ああ、腕、お腹、くうう!、脚も・・」
浩一は彼女の苦しみもがく様子を見ることしかできなかった。
「一体どうなってしまったのだ?・・・・」」
麻衣の顔が青く光るように変色し始めた!
「あ、あ、いやあああ!! た、す、け、て・・」
麻衣の声を聞いたのはこれが最後であった。
顔だけでなく、手も脚も麻衣の身体全体がすでに青く変色、それだけではない、大変なことが起きていたのだ。間もなく、悲劇が起きた。
「ブクブクブク、ブクブク、ジュジュジュ、・・」
水か泡か、そんな音がし始めた。浩一は言葉を失った。目の前で起きている恐怖に、ただ耐えるしかなかった。
「ジュジュジュ、ブクブク、ジュジュ、ブク、ペチャ、・・」
麻衣の顔、それだけではない、手や脚からも青く変色した彼女の肉体が泡を噴き出しながら、溶け、流れ出ているのだ!
「ジュジュ、ブク、ペチャ、・・」 どんどん麻衣の身体が水溶液として流れ落ちていった。もちろん麻衣はすでに意識がなく、死亡は明白であった。麻衣の身体、いやそれはすでにスーツを着た水溶液の塊であった。きれいな脚もどんどん水溶液化していくのだから、パンプスを履いていなかったとしても立ってはいられない。バランスを崩したそれは、前に崩れるように路上に落ちた。
「バサッ! ブクブク、ペチャ・・、ペチャ・・」
・・そしてついに泡、水溶液が出なくなった。完全に麻衣の身体すべてが水溶液化して流失したのだ!! ひとりの人間の肉体が水溶液化した。筋肉、血液、骨すべて、人間の細胞組織そのものを急激に化学反応(青い変色)させ、多量の泡と水分に変えた。スーツの腹部辺りとスカートはびしょびしょに濡れていて黒に近い色になっていた。スーツの襟元、両手の袖口、そしてスカートの裾からパンプスまで、その辺りには水溶液が相当残存していたが、特に臭いもなかった。何とも不可解な、いや戦慄の殺され方であった。
浩一は自分の前に見える、その光景を、2,3分前まではチャーミングな女性の姿を見せてくれていた麻衣の、変わり果てた遺体そのものなのだと、現実として直視せねばならなかった。
通報を受けた警察が間もなく現場に到着し、「女性水溶液化殺人事件」の現場検証が行われた。
氷川刑事「被害者はOL、清野麻衣、23才。いっしょにいた同僚の会社員の話によると、被害者は歩いていて急に苦しみもがき、全身青い色に変色、泡を噴きながらドロドロと水のように溶けていったようです。」
多量の水溶液はすでにほとんど道端に流れ出ていたが、鑑識班が被害者のものと思われる水溶液を採取していた。
北條刑事「人体が泡を噴いて水溶液になったのか?」
河野主任「それにしても、こんなことってあるのか? 洋服とハイヒールだけ残して、肉体だけが水溶液化するとは!?」
北條刑事「不可能犯罪。まちがいなくアンノウンの仕業ですね。」
河野主任は氷川刑事に向かって、「またお前の出番だな。」と言った。
後日、氷川のG3Xではなく、アギト(翔一)、ギルス(涼)、木野アギトの連続必殺技により、ハリネズミ・アンノウン「エリキウス・リクオール」は爆死した。
(終わり)