Step to Death


作・丸呑みすと様

 人類の歴史で最も古い楽器と云われる打楽器。 
刻まれるビートは人を高揚させ、躍らせる。
それは人の心臓の鼓動に呼応からだろうか。

「や〜、今日もキツかったぁ〜」
首をぐるぐる回して言ったのは、小柄ながらメリハリのきいたプロポーションをしたショートカットの野添まゆだった。

「ホント、脚なんかパンパンだよぉ」
ミニスカートから伸びた太腿を掌で叩きながら松下理保が応えた。
ぽっちゃりした体型で、今時珍しい黒髪のストレートロングが清楚な印象を与える。

「ちょ、理保ちゃん。そんなに屈んだらパンツ見えちゃうよ」
理保の後ろに回りながら言ったのは、三人の中では妹的なポジションの七瀬真帆だ。スレンダーな肢体と潤んだ黒眼が愛らしい。

「あンたは、元々腿とか、お尻パンパンじゃん」
「ひっどぉ〜い、まゆ」
三人は同じ高校の同級生でクラブも一緒のダンス部だ。
定期発表会を間近に控え、今日も放課後みっちり練習に励んできた帰りである。
紺のブレザーの左胸には金糸で校章が刺繍され、グレーのチェックのスカート丈は膝 上何センチよりは股下何ミリかで測った方が早い。
三人は中央公園に立ち寄ると、今日やったパートの再確認をすべく互いの動きを チェックした。

「・・でさ、先週うちのサッカー部とやった相手校のフォワードっているじゃん」
「小津・・君だっけ?お姉さんがモデルの小津芳香なんだよね」
「そうそう、結構イケてない?」
「え〜、あんたあんなのが趣味ぃ?」
そんな他愛のない会話をしているうちにすっかり日は落ちていた。
そいつは茂みの中に潜んでいた。
地帝冥府インフェルシアから地上にやってきた冥獣マンティコアだ。
赤を基調とした派手な配色は、南方の仮面を思わせる。
そいつは立ち上がった。
2メートルを超える巨体は海老のような殻で覆われている。
そいつは自分の身体を弾くと、頭を叩き始めた。
音は一定の旋律と鼓動となって、春の宵闇に流れていく。

「え、何」
「ちょ、身体が?!」

「うそ?!」

三人の身体がぴくっと反応した次の瞬間、身体は勝手に動き始めた。

「いやよ、もう疲れてんのにぃ〜!」
三人は踊りながら茂みへ引き寄せられていく。
茂みからマンティコアが姿を現した。
ライオンとサソリを合成したかのような醜悪な姿に三人が悲鳴をあげた。
巨体に似合わぬ軽快なステップを踏みながらそいつは手招きをする。
手を伸ばせば届く間合いに、理保が入った。
マンティコアの顎が開く。
「い、い、 嫌ぁ―」
理保の悲鳴はそこで途切れた。
大きく開いた口がぽっちゃりした身体を咥えこむ。
バタつく両脚の奥に白い布で包まれた箇所が見え隠れする。
理保のつま先が大口に消えた直後、マンティコアの両手がまゆと真帆を掴んだ。 泣き叫ぶ二人の女子高生をマンティコアが口の中へ押し込んでゆく。
強力な顎が閉じるごとに二人の肢体が呑み込まれていった・・・

「ふふ、これが本当の踊り食いだよねぇ〜」
「ねぇ〜」
木の蔭からこの惨劇を眺めてたパンクとゴスロリの少女たちが呟いた。
インフェルシアの妖幻密使少女態ナイとメアだ。
「マンティコアは踊らせた人間を喰うのが大好きだもんねぇ」
「ねー」
マンティコアは夜の帳の中に消えていった。
今の三人がこなれたら、また新たな餌食を探すのだろう・・・



(終)