悲劇の三人姉妹


作・taka様


都内某所に存在する、とある団地。その家の一つで、一人の少女が家計簿をつけながら深々とため息をついていた。

「今月も厳しいな・・・」

そう呟いたのは岡崎利恵子(おかざきりえこ)19歳、都内某企業の受付嬢として働く少女だ。

彼女は未成年ながら、一家の大黒柱として二人の妹を食べさせていかなくてはならない立場だった。妹の咲枝(さきえ)と絵美(えみ)はまだ中学生と小学生、来年中学を卒業する咲枝は卒業後すぐ就職して働いてくれると言っているが、絵美はまだ小学校4年生である。利恵子はできることなら、絵美にだけは高校や大学に進んでほしかった。昨年両親を相次いで亡くし、夢に終わってしまった大学進学を絵美に引き継いでほしかったのだ。

利恵子はリビングを後にすると、寝室で二人並んで眠る咲枝と絵美のもとに向かった。あどけない笑顔で眠る二人が、利恵子にはたまらなく愛おしかった。

「咲枝、絵美・・・・・・お姉ちゃん、もっとがんばるからね」

二人の頭を優しく撫でてそう言った、その時だった。

「ごめんください、ごめんください」

突然、玄関を叩く音とともに、若い男性の声が聞こえてきた。

「誰かしらこんな夜中に・・・」

時刻はもうすぐ12時になろうとしている。一体何事だろうと思いながらも、利恵子は玄関のドアを開けた。

「井崎さん・・・」

「申し訳ございません、こんな夜分に」

ドアの前に立っていたのは、同じ団地に住む井崎という青年だった。最近魔境といわれる天狗岳から、奇跡の生還を果たしたとかでちょっとしたニュースになっていた。

「どうなさったんですか、一体?」

利恵子が尋ねたその時、井崎は突然部屋の中に入ってきた。

「い、井崎さん?」

「あなた方一家も私のように、ショッカーの一員となるのです」

井崎が虚ろな目で、しかし断言するように言った。

「しょ、ショッカー・・・?」

利恵子が疑問の声を上げた瞬間、突如として部屋の明かりが暗くなった。そして井崎の背後から、人とアリクイを合成させたかのような、不気味な怪物が姿を現した。

「きゃああああああああああああああああっ!!」

その悲鳴に、部屋で寝ていた咲枝と絵里が目を覚ました。
「利恵子お姉ちゃんの声だわ!」

「行ってみましょう!」

二人は先を争うように、パジャマ姿で姉のもとに向かった。だがそこで目にした怪物の姿に、二人そろって悲鳴を上げた。

「お前たち姉妹も、このアリガバリ様のしもべとなるのだ!」

アリガバリと名乗った怪物はそう宣言すると、赤く長い舌を伸ばして利恵子の首筋を貫き、その体内に保有する「アマゾンの呪い」と呼ばれる細菌を注入した。

「あうっ!」

短い悲鳴を上げながら、利恵子は苦悶の表情でその場に倒れこんだ。すると彼女の可愛らしい顔が、みるみる青く変色してゆく。

「姉さん!」

「利恵子お姉ちゃん!」

絶叫を上げる二人の妹の目の前で、利恵子の体は着ていた服ごとグジュグジュと音を立て、溶け崩れていった。

「きゃあああああああああっ!」」

その凄惨な光景に目を覆う咲枝と絵里。やがて利恵子の体は完全に溶解し、跡形もなく消滅した。

この「アマゾンの呪い」、注入された人間に耐性があればアリガバリの意のままに操られる下僕と化すが、耐性のない者は今の利恵子のように跡形もなく溶けてしまうのだ。

井崎はこの毒への耐性を備えていたために、アリガバリの下僕と化して働いていた。

「次はお前たちだ!」

アリガバリはそう言うと、恐怖にガタガタと震える咲枝と絵里に視線を向けた。

「咲枝お姉ちゃん!」

「絵里、逃げよう!」

二人はその場から逃げようとしたが、アリガバリに操られる井崎がその前に立ちふさがり、二人の体を抑えつけた。

「いやあっ、いやあっ!」

「放して!お願い、助けてえっ!」

二人の哀願など意に介さず、井崎は二人をアリガバリの方へ放り投げた。アリガバリはそれを待っていたかのように、まずは咲枝の首筋に舌を突き刺した。

「あっ!ああぁぁぁ・・・」

倒れこんだ咲枝の顔が、徐々に青く変色してゆく。彼女も利恵子同様、みるみるうちに体がパジャマごと溶けて、消滅してしまった。

「きゃああああああっ!咲枝お姉ちゃあああああん!」

一人残された絵里が、恐怖の悲鳴を上げる。アリガバリは非情にも、絵里にもその魔の手を伸ばす。

「さあ小娘、お前はアマゾンの呪いに耐えられるか!?」

アリガバリの赤い舌が伸び、絵里の首筋を突き刺した。

「きゃああああああああああっ!」

絵里は首筋を押さえて苦しそうに悶えていたが、やがて意識を失って倒れこんだ。程なく彼女の顔もみるみる青く染まってゆき、その幼い体は衣服もろともシンナーをかけられた発泡スチロールのようにグジュグジュと溶け崩れ、染み一つ残すことなく完全にこの世から消え去った。

「ギィゴオッ!次だ!」

アリガバリは井崎を連れ、次の家へと向かった。この非道なアリガバリの振る舞いは、彼が仮面ライダーに倒されるまで続いたのだった。