美人姉妹の悲劇(後編)


作・taka様


「あ〜あ、遅くなっちゃった」

そうつぶやいたのは久瀬朝花(クゼトモカ)、18歳の女子高生だ。友人二人と放課後ゲームセンターで遊んでいて、気が付いたら夜の7時を回っていた。あまり帰りが遅くなると、姉に怒られてしまう。慌てて朝花は二人と別れて家路についたが、その途中いいことを思いついた。

(補習で遅くなっちゃった、て言えば、お姉ちゃん納得してくれるよね・・・)

自慢ではないが、朝花は学年で下から数えたほうが早いほど成績が悪い。そのためテストの前後に行われる補習では常連で、友人からも呆れられている。

(そうと決まれば、そんなに急ぐことないよね)

気持ちに余裕ができた朝花は、途中でお菓子を買って、食べながら歩いた。そういえば今日は、姉の友美が珍しく家にいるはずである。朝起きて朝食の支度をしようとしたら、テーブルに置手紙があった。ということは・・・

(今日の晩御飯、久々にお姉ちゃんの手作り!)

朝花の心は踊った。何しろ姉の友美は夕方出勤が多く、朝花はいつも一人で夕食をとっていた。だから、姉妹顔を合わせて食事をとるのは、一か月に一度あるかないかのことだった。

 しばらくして、自宅アパートに着いた。朝花は踊る心を抑えて、家の玄関を開けた。

「ただいま〜!」

・・・・・・姉の返事はなかった。朝花はもう一度「ただいま〜」と呼びかけたが、やはり返事はない。
「誰もいないの?」
そんなはずはない。玄関の鍵を開けたまま、友美は外出したりしない。
「誰かいませんか〜?お姉ちゃん?」
きっとお姉ちゃんは、私をからかっているんだ。どこかに隠れて、朝花が近くに来たら「ワッ!」と大声で飛び出すつもりなんだ。

そう思って、朝花は居間に入り、姉が隠れるには絶好の場所である押入れを開けて、中を覗き込んだ。しかし、そこにあったのは丹念に畳まれた布団のみ。
・・・朝花は急に不安になってきた。本当に、姉はこの家にいないのではないだろうか。だって今、この家に人の気配がしない。でもなんで、鍵は開いていたの・・・?

「誰かいないの?」

不安な声を上げた朝花は、心を落ち着かせるかのように、持っていたお菓子を一口食べた。口の中に、甘い触感が広がる。少し落ち着いたものの、やはり不安はぬぐえない。

「ともちゃん帰ってきたのにだれもいな〜い。うぅ・・・」

大げさに泣き声を出してみたが、やはり反応はない。そのとき、ふと朝花は思いついた。

(お姉ちゃん、もしかしてお風呂に・・・?)

だが、その可能性も低い。たとえ入浴してても、玄関が開く音くらい聞こえるはずである。でも確かめないと。そう思い、浴室に向かおうとしたその時・・・

「きゃーっ!いやああああっ!」


朝花の目の前に、異形の怪物が現れた。その姿を直視した朝花は、驚きと恐怖のあまり、気を失って倒れた。

 朝花を浴室に運んだ怪物は、意識を失ったまま座り込んでいる朝花の顔面に、白い泡を吹きつけた。
ぶしゅーっと勢いのいい音を立てて、泡は朝花の顔面を覆った。しばらくすると、朝花の顔面は白い乳白色の液体となり、どろどろと溶け崩れ始めた。

(うう〜ん・・・あ、い、痛い・・・苦しい・・・)

不運にも姉の友美と同様、朝花は意識を取り戻してしまった。顔が溶ける苦しみに耐えられず、朝花はその場に倒れこんだ。

(く、苦しい・・・)

今まで感じたことのない苦痛に、朝花は身悶えした。しかし怪物は容赦なく、彼女の下半身にも泡を吹きかけた。スカートからはみ出る生足が、泡に蝕まれていく。

(苦しい・・・でも、なんだろう、この感じ・・・)

全身に痛みを感じながらも、朝花は次第に、痛みとともに一種の快感を感じ始めていた。朝花は今まで性体験、果ては自慰すらしたことがなかった。
そんな彼女が、体が溶けるというこの異常事態に瀕し、初めて性の快楽を得たのは、果たして幸だったか、不幸だったか。

朝花は快楽を感じるたび、体を思いっきり突き上げた。二度三度彼女の体が上下すると、彼女の体はピクリとも動かなくなった。それを見届けた怪物は、彼女が泡の力で溶けて消滅することを確信し、能力テストが完了したと判断して、アパートを後にした。

(すごい・・・痛くて・・・苦しくて・・・でも・・・・・・気持ちいい・・・・・・)

痛みと快楽に心を苛まれながら、彼女の意識は消えていった・・・

 翌日。唐突に学校を休んだ朝花を心配した彼女の友人が、放課後姉妹の家を訪れた。何度インターホンを押しても反応はなかったが、玄関の鍵が開いていたので、彼女は意を決して中に入った。しかし、どの部屋を探しても誰もいない。あきらめて帰ろうと、最後に浴室のドアを開けた彼女は、そこで妙なものを見つけた。浴室の中央に、朝花の制服と靴が脱ぎ捨ててあったのだ。まるで、つい今しがたまでこの服を着ていた朝花が、ここで寝そべっていたかのように。そして浴室の隅に、おそらく彼女の姉のものであろう、水色のスーツとブーツが、同じように脱ぎ捨てられてあった。

友人の通報で警察が駆け付け、姉妹の失踪について捜査が始まったが、浴室を始め家には事件の手がかりはなく、また失踪の理由についても答えを得ることができなかった。結局この不可解な失踪は、生活苦ゆえの心中、ということで処理され、闇に葬られたのだった。