美人姉妹の悲劇(前編)


作・taka様


「クゼ トモミ、年齢24。都内ファッション会社ニ勤メルOL。クゼ トモカ、年齢18。都内公立高校ニ通ウ女子高生、クゼ トモミノ妹。両親ハスデニ死去、現在ハ都内ノアパートで二人暮ラシ」


とある建物の中で、コンピューターが淡々と姉妹のデータを読み上げる。

「今回ノ実験対象トシテ最適。コノ二人デ新怪人ノ能力テストヲ行ウベシ」

機械の声が、冷酷な決定を告げた・・・

海が見たい。友美はそう思って、自宅アパートから歩いて20分ほどのところにある海を見に来ていた。
やっぱり、ここにきてよかった、と思う。海を見ていると、つい先ほど上司にこっぴどく叱られたことが、とても小さいことのように感じる。

5年前に両親が亡くなって、しばらくは朝花を祖母に預けていた。高校卒業後に就職して、それと同時に一人暮らしを始めたばかりだった友美に、妹を養う余裕はなかった。自分のことで精いっぱいだったし、正直な話、やっと一人になれた、という解放感を捨てたくなかった。
しかし、両親の死から半年ほど経って久しぶりに朝花に会った時、彼女は目に涙を浮かべながら友美と同居したいと訴えた。最初は驚いた。祖母にぞんざいに扱われているわけでもないのに、自分のところなんかより、今の暮らしのほうがよっぽど快適だろうに、どうしてこの子はここまで自分と暮らしたいなんて言うのだろう。
その答えは、祖母が教えてくれた。朝花は寂しかったのだ。姉と別れた時点で、彼女の受けたショックはなかなか大きいものだったそうだ。それを今まで慰め、支えてくれていた両親を、今度は事故でいっぺんに失った。祖母の愛情を受けながらも、朝花には心から頼れる人間が一人もいなかったのだ。

妹の思いを知った友美は、妹との同居を決意した。そして、朝花が家に来てからは今まで以上に働いた。しかし、現実は厳しいものだ。自分以外の命を背負っている、という重圧は予想以上だった。同居を始めて4年が経ったが、その4年間の思い出はほとんど仕事のことしかない。朝花が家事ができる子で本当に良かったと思う。もし家時までやることになっていたら、きっと過労死していただろう。

いけない。またマイナス思考の堂々巡りだ。ついさっきまでの残業が、よほどこたえているんだな、私。もう今日は家に帰って休もう。明日は久々の休日だし、朝花を誘って食事にでも行こうか、などと考えながら、友美は家路についた。

違和感を感じたのは、家まであと二分くらいというところだった。

(私、つけられてる?)

誰かに、ずっと見られているような感覚。ストーカーか、とも思ったけど、会社で私を好いてそうな男などいない。

(早く、家に入ってしまおう)そう思った。家に入ってしまえばこっちのもの、相手には何もできはしない。

そう思ったのが浅はかだった。違和感は、家に入ってからも続いたのだ。誰かが、じっとこちらを見ている、いやな感覚・・・

堪えきれず、友美は家中の開けられる場所を片っ端から調べ始めた。箪笥、家具入れ、風呂場・・・わずかな隙間に、監視カメラでも仕掛けられているのかもしれない。しかし、そのような類のものは見つからなかった。にもかかわらず、見られているという感覚は徐々に強くなっている気がする。

(いったい、何なの・・・?)

一度横になって落ち着こう。そう思い、寝室に向かおうとしたとき・・・

「きゃーっ!あ、ああっ!」

彼女は見てしまった。おぞましい怪物の姿を。恐怖で気を失った友美を、怪物は浴室に運んだ。そう、この怪物は友美を、家の中でずっと待っていたのだ。

友美を浴室に運んだ怪物は、気を失ったままの友美の顔面に白い泡を浴びせかけた。

ぷしゅーっと勢いよく音を立て、泡が彼女の顔面を覆った。そしてそれからしばらくして、彼女の顔はどろどろと溶け崩れ始めた。意識を失っていた友美は、その激痛で意識を取り戻した。呼吸をしようにも、顔が溶け崩れているので息が吸えない。まだ溶けていない手で、胸をかきむしった。

(く、苦しい・・・)

残酷なことに、意識ははっきりとしていた。やがて苦しみに耐えきれず、友美は横たわった。しかし次第に、友美は痛み以外のものを感じ始めた。

(苦しい・・・けど・・・気持ちいい・・・)

体が溶けるという、これまでにない感覚。確かに苦しかったが、それと同時にすさまじい快楽が友美を襲った。彼女には二度ほど男性経験があったが、その時感じたものとは比べものにならないほど強い快楽が齎されていた。

(ああ、気持ちいい・・・)友美は脚をM字に開き、さらに快楽を求め秘所に手を伸ばした。と、その時だった。これまでの快楽は一遍に凋落に入った。最後の苦しみが彼女を襲い、その痛みに友美は大きく体を痙攣させ、やがて動きを止めた・・・

友美の肉体は不気味な音を立てながら溶けて白い泡となり、5分ほどで泡となって溶け切った。その泡も30分ほどで残らず蒸発し、浴室には友美が着ていた水色のスーツと下着、そして黒いブーツが脱ぎ捨てられたように残っていた。