遊星獣プラスドマイオス

作:J.K様

無限に広がる宇宙。数え切れないほどの恒星、惑星、衛星といろいろあるが、夜空のロマンとして見られている流れ星、遊とも定義できるが、それは全てが流れ落ちていく星だと思い込んでいる人も多い。しかし、今、もしその遊星のひとつが宇宙の彼方から飛んで来た恐怖の遊星獣だとしたら、いったい、どんなことになるのだろうか。

 2002年9月の末日、その事件は起きた。深夜の11時半ころだった。南の空を赤い光跡の遊星が流れていった。ここは東京の山の手高級住宅街。ほとんどの家庭ではすでに就寝していて、その音に気がついた人はほとんどいなかった。

 「ワン!ワン!ワン!」、「ウオー!ウオー!、・・・」、「・・・」、「キャキャン! キャン!・・・」。

立派なセント・バーナード犬がしきりに吠えていたようである。その犬の飼い主は、テレビ山手の女子アナ、中瀬由里(27才)で、もうそろそろ帰宅の時間であったが、飼い主に吠える犬はいないだろう(何かあったのか?)

 翌日朝、由里の自宅前は騒然としていた。
山手署の刑事、鑑識班などで関係者だけでもかなり多くの人間が集まっていた。刑事の田倉(30才)は、上司の村中警部補(40才)へ、
「これは酷い。」
「いったい誰がこんなことを!?」
村中は「害者はこの家に住む
テレビ山手の女子アナ、中瀬由里に間違いないな?」
 田倉「は、はい。それにしても頭も手も脚も白骨化していて、・・・げえ!」

 まともに見られたものではなかった。
田倉「ハンドバッグの中にあった身分証明書で本人と確認できましたが、いったい誰がこんな方法で・・・・。」彼女が飼っていたセント・バーナード犬
も骨だけになっていた。彼女の全く惨い死体、着衣のクリーム色のツーピースのスーツやスカート、白いパンプスはそのまま残されており、肉体だけが白骨化したのだ。
「ホシはどうやってこんなことが出来たのか?」

 白骨死体の骨からは白い湯気が上がっており、酸味と焦げたにおいが合わさったような強烈なにおいが漂っていた。現場検証、鑑識班のカメラのフラッシュがいつまでも続いていた。

 田倉はこの事件のホシは人間ではなく、全く未知の動物の仕業と思っていた。いったい、何の目的で白骨化させたのか、動機がわからない。ただ肉体を溶解しただけなのか、それならなぜ着衣だけきれいに残せたのか。あるいは肉体はホシが奪い取ったのか。

 その答えは鑑識班の報告書で明らかになった。白骨死体、及びその周囲には、一滴の血液も肉片も残っておらず、もし溶解したのなら、何らかの形跡が残るはずとのこと。また、もし想像を絶する火力で一瞬のうちに白骨化したならば、着衣も溶解しているはずだ、というのである。

 田倉の仮説によれば、ホシ(未知の動物)は由里の体内の血液、肉など養分を何らかの方法で吸収したのだ。そして必要ない骨や洋服、靴を残した。

 その日の夜、恐れていた第二の犠牲者が出てしまった。午後11時40分ころ、帰宅途中の大手銀行に勤務するOL、沢木恵美(23才)。場所は由里の自宅と500メートルくらいしか離れていない路上だった。恵美は、黒地に薄いグレーのストライプの入ったスーツとスカート姿で、シンプルな黒いパンプスを履き、帰宅を急いでいた。
「コツ、コツ、コツ、コツ、・・・」

 自宅まであと300メートルくらいになった、区内緑地公園の入り口あたりで、公園内に生茂っている低木や雑草の一帯から、奴は姿を現した。ピンク色に光った大きな目をもつ、そう、亀のような頭をもっていて、体長3メートル、体重350キロくらいの黒いグロテスクな亀の化け物のようだった。

 あれ!? 頭が5つあるぞ。昨日は頭はひとつだったのに。養分を吸収して頭が増殖したのだ。(かつて、ゴジラと戦った「キングギドラ」は頭が3つあった。)

 プラスドマイオス星団からの遊星に乗ってやって来た奴、遊星獣プラスドマイオスは、まず、ひとつの頭が口を大きく開けた。
「ギエエエーーーン!!」

 恵美は、「きゃああああーーー!!ば、化け物―――!!」

「だ、だれか、だれか助けてーーー!!」 奴から見れば、身長162センチ、47キロの恵美の体は獲物としてちょうどいい大きさ、そして若い女性、美人でスタイルもいい、上等の獲物だった。

 恵美は捕まったらもう終わり、食べられてしまうと思ったが、走って逃げるにはスーツにパンプスでは無理であった。気持ちだけ焦り、5,6歩でバランスを崩し、前方に転びそうになったりして、走り去ることなど出来るはずもなかった。
「いやあーーー!!た、たすけてーー!!だれか来てえーーー!!」
もはやここまでか、あの大きな口に呑み込まれてしまうのか。

 その瞬間、奴のひとつの頭の口から、「黄銅色ともオレンジ色とも見える色」のガスが発せられた。

「ボワーーー!」 
強烈な溶解ガスに違いない。
すごい酢っぱい臭気が恵美の全身を覆った。

 「くうううう!!ぐえええーーー!!」
「ゴホン!ゴホン!エップウ!」
「ぎゃああーー!!」。

強烈な酢酸を主成分とする溶解ガスに、恵美は吸い込んだガスの激痛に堪えきれなくなり、にむせて、呼吸困難になっていった。恵美の意識はしだいに薄れていったが、と同時に、このガスを吸い込んだ恵美の肉体に、別の化学反応が起きていた。顔や両脚の皮膚から「緑色」の湯気が発せられ始めたのだ。

 そして次第に、スーツの襟元やスカートの中からも・・・、全身に広がっていった。

 「ぎええええーーーーーー!!!」
 
恵美の最後の声、叫びだった。

 恵美の体は路面に倒れた。そしてその緑色の湯気が何と固まったかのように見えたかと思うと、奴のひとつの口の中へ吸い込まれていったのだ。プラスドマイオスは実に器用な能力を持ち備えていた。

何しろ奴は、自ら溶解ガスを発し、そのガスが獲物の体内に入り、血液や肉など養分を養分ガスに変えて、そのガスを自分の口の中に吸い込むという、実に効率的な狩猟をしているのだ。(吐いて吸う。)

 「シュー、シュー、シュー、・・・」、養分ガスを吸う音であった。

 そして、他の4つの口からも同様なことがすでに始まっていた。

 「シュー、シュー、シュー・・・」、「シュー、シュー、シュー・・・」・・・。

 5分後、恵美の養分ガスが全て吸い尽くされた。

 「酷い。」 23才のOL恵美が白骨と化したのだ。

周辺には、酸味と焦げたにおいが充満していた。また、強烈な酸性ガスの影響を受けたためか、よく見ると恵美の頭蓋骨の右側半分がパックリと割れていた。しかしながら、スーツやスカートはほとんどそのまま残されていたこと、パンプスも7割程度原型を保っていたことが、白骨から白い湯気が舞い上がっていても、この白骨死体が若い女性のものであることをすぐ認識できるだけに、とても無残な最期、目を覆いたくなる光景であった。

翌日、山手署は、「山手区内連続若い女性白骨死体事件」捜査本部をつくることになった。

今後、宇宙からの侵略者(未知の動物)への対策が急務である。

それこそ、「仮面ライダー」にでも登場してもらって、奴らをやっつけてほしいものである。

(終わり)