都市伝説・妖怪娘喰らい


作・丸呑みすと様

 「ピンちゃん、何やってんだよ!」
木戸猛は声を張り上げながら、高架下の方へ駆け 出した。

ここは都内某所の河川敷にあるグラウンド。猛たち江南第一小学校のクラスメイトたちが、放課後、サッカーに興じているところだった。
猛がクリアで蹴り出したボールを拾いにいったクラスきってのお調子者、ピンちゃんがなかなか戻ってこないのだった。
猛の後に白鳥健太郎や須崎久美江らも続く。ピンちゃんはただぼうっと立ち尽くしている。

「なんだ、ボールあるじゃねぇか」
猛の言うとおりボールはあった。何やら泥の塊らしいのにあったたらしい。ピンちゃんの右手からぶら下がっているものに久美江が気付いた。

「ピンちゃんのエッチ!」
久美江の声と同時にピンちゃんの頬が鳴った。
ピンちゃんの手から泥にまみれた薄紫のブラが地に落ちた。

「これが、その泥の塊から見つかったという物件か?」
木戸麟太郎が顔なじみの鑑識 官に声をかけた。シートが敷かれたテーブルの上には、数人分の衣類や靴が並べられている。

「ええ、しかも最近失踪したり、捜索願いの出てる女性の物ばかりです」
「この制服は確か・・・」
緑のスカーフと並んだ濃紺のジャケットとタイトスカー ト。

「走行中の列車から忽然と消えた客室乗務員のものです。谷朋子、24歳。東日鉄道関連会社に勤務してました」

木戸は警視庁刑事部所属のベテラン刑事だ。
元々捜査一課にいたが、現在は新設され た特殊超常犯罪対策課?通称「トクチョー」のメンバーだ。この課はここ最近、増加した、奇怪な変死や失踪事件に対する捜査を行っている。現在重点を置いているの は都下における連続女性失踪事件だ。
失踪者の殆んどがOLや女子大生といった若い女性であり、中には走行中の列車や、残業中のオフィスビル退館するなら映る筈の防犯カメラにも映って無い?から姿を消した者もあった。
「こっちはこの間、残業時にコンビニへ買い出しに行ったきり失踪したOLのだな」
木戸が眼をやった先には黒いタイトスカートとグレーのチェックのベスト、そしてブラウスがあった。

「パンプスと買った品の入ったレジ袋だけが落ちてましたからね。レシートの時間と記録された映像からみて、ビルに入る直前に襲われたようです」

「あやかぁ、あんたヤバかったよ」
バイト仲間が声をかけてくる。

「え、あたしなんかやらかした?」
着替えながら瀬山彩香が応じる。ファミレス「マリーアンジェラ」でアルバイトする愛くるしい顔立ちの女子高生だ。
むっちりと肉付きのいい(本人はもう少し痩せたがってるが)身体を覆うのは、今は替えたばかりの薄紫のブラとショーツだけだ。

「あんたがテーブル拭いてるとき、おしりのあたりガン見してたオヤジがいたんだよ」

「うわー、なにキモ―イ!」他の仲間たちが騒ぐ。

「そりゃ、うちの制服じゃ、ねぇ・・・」
彩香の言葉に皆うなづいた。この店のウェイトレスの制服は胸を強調する独特のデザインで、かつミニスカートで人気が高くマニアもいるという。
彩香の制服姿はまるであつらえたかのように様になっていた。

瀬山彩香は帰路にあった。ネイビーのジャケットにグレーのプリーツミニは学校の制服だ。

ふっと足を止めた。どうもさっきから後をつけられてる気がする。

(ねぇ、知ってる?「妖怪娘喰らい」って?)
バイト仲間から聞かされた都市伝説が頭をよぎった。

(そいつは、姿を消して音も無く近づいてくるの)
彩香は小走りに駆けだした。

(ただ、姿を消してても、そいつって息すげぇ臭えから、居る事がすぐ分かるんだ)
角を曲がったところで止まり、一息つく。その時、鼻をつく悪臭がした。

(でも、そのときはもう逃げられないんだって!!)
彩香の首に青く太い腕が巻きついた!
その力は強く、彩香は声一つ上げられない。

恐怖に眼を見開く女子高生に巨大な口が覆いかぶさって来た。

夜の闇にミニスカートから伸びた彩香の白い太腿が踊った。スカートが派手に捲れ、奥の下着がのぞく。
激しくバタつく足から右のローファーが脱げ落ちた。・・・やがて伸びた舌が、彼女の尻を押し上げ、さらに股間を押し込むようにして巨大な口の中へ呑み込んでゆく。

「ふふふ、今宵も若い女が美味い」
女子高生を生きたまま丸呑みにしたドルゲ魔人クチビルゲはそう呟くと、自身の持つ保護色能力で再び壁に溶け込んだ。

「猛、ぺリットって聞いたことあるか?」
健太郎が言った。

「なんだ?絵描きの道具か?」
猛の答えに、そりゃパレットだ。と突っ込んだ上で健太郎は解説した。
「鳥類が食べた物のうち、消化されずに吐き出されたものだよ」

「・・・じゃあ何か?あの塊はぺリットってことは・・・」
木戸刑事は、考えが怖い事になりそうなのを耐えながらいった。

「付着した液に消化酵素と、未知のバクテリアらしきものが見られます」
鑑識官は言った。
「消えた娘さんたちは、おそらく・・・」
鑑識官は言葉を失った。(たしか、大学生のお嬢さんがいたっけな)
木戸刑事も気持ちは理解した。彼にも高校生の娘、紀子がいる。

若い娘を餌食にする正体不明の怪物が今も徘徊しているという事実。

(何か、手を打つべきでは無いのか?)

木戸刑事は遺品の一つに眼をやった。

ネイビーのジャケットとグレーのミニスカート。紀子と同じ高校生のものだろう。