遊星獣・プラスドマイオスの恐怖U

作:J.K様

遊星獣プラスドマイオスによる第二の事件、沢木恵美(23才)が犠牲となった日の翌日、

10月2日は朝から秋雨であったが、それを象徴するかのように、連続若い女性白骨死体事件の捜査、対策はほとんど進展がなかった。

 田倉ほか刑事たちは、今晩にも次の犠牲者が出てしまうのではないかと一様に緊張していた。しかし、幸いにもその日の夜、犠牲者は出なかった。

 3日朝、田倉刑事は事件が人間外生物による犯行と見ており、必ず次の獲物を狙ってくると予感していた。そしてその夜、午後7時を少し回ったころ、・・・。

 青が丘女子高校の3年生、桑原なつみ(18才)は、テニス部のクラブ活動で今日はいつもより少し遅い帰宅の途中であった。今月から秋冬服になった濃紺のブレザーの制服を着たなつみは、身長155センチ48キロと小柄だが、黒髪のセミロング・ストレート、可愛らしい女子高生であった。今日は白のルーズソックスと白のひも付きのスポーツシューズを履いていた。山手区二丁目2番地の路上で、
突然「ピポン、ピパパ、パーンパン。」

こんな音がした。なつみの携帯電話が鳴ったのだ。
「はい、なつみでーす。うん、・・・うん、OK!・・じゃあね、バイバイ!」
友達からのようだった。

 そのなつみの後方約10メートルに、やはり携帯電話を使っている、ダークグレーのツーピース、スーツ姿の若い女性が見えた。その若い女性は、輸入車のディーラーで国内最大の会社、マルシェ自動車本社秘書課勤務、井関彩子(25才)であった。

山手区三丁目の取引先、エムモーター社へ向かう途中のようであった。昨年ミスOL東京コンテストでミスOL東京に選ばれた彩子は、身長163センチ、48キロ、こげ茶色の髪は肩に少しかかる位の長さにカット&パーマ、大人の女性スタイルの髪型で確かに男性に好かれる美人タイプの女性であった。服装はジャケットがフェミニン風なエレガントなスーツ、スカートは膝より少し上の丈のタイトスカート、おしゃれにダークワイン色のスカーフ、そして脚が一番きれいに見えるといわれる、ヒールの高さ5センチ程度の黒パンプスを履いていた。黒パンプスは、プレーンなタイプながらも、フロントのVカットが足元をスッキリさせ、ベージュのパンストが脚のラインを引き締めていた。彩子は秘書としての仕事も良くでき、責任感も強かった。

彩子は右手で契約書類の入った封筒とファイルを持ち、エルメスの腕時計をしている左手で携帯電話、「・・・井関です。・・・間もなくエムモーター社に着きますので。・・・・そうですか、わかりました。・・・はい、承知しております。・・はい、失礼します。」上司との携帯電話を切ったら、彩子の急ぐ足音、ヒールの音が響いてきた。
「コツ、コツ、コツ、コツ・・・」
 二丁目2番地の路上を歩く
彩子の左後方上部より、奴は飛来してきた。
「ヒューーーン!」、
 奴は例の緑地公園から飛んで来た。
「ズドン!!」、奴は彩子のすぐ左横に下りた。

 「!」、振り返った彩子、
「きゃあああ!!」

「ジ、ジ、ジ。」

「ば、化け物―――!!」

 彩子の悲鳴に前方を歩いていたなつみは、思わず振り返ってその現場を一部始終目撃してしまった。
「はあ!? 何!? うそーー!」
なつみ
は唖然としていた。

 遊星獣プラスドマイオス、体長3メートルを超える、黒っぽいグロテスクな亀の化け物は、頭の数がまたもや増えて10頭もあった。それぞれの頭の口元から、以前には見られなかった捕獲機能なのか、へびのような手が7本、シュルシュルと伸びてきた。その先端には5センチ程度の牙がついていて、彩子の左右の脚に「プシュ!プシュ!」、左太股に「プシュ!」、左腹部、右肩、左手首、右頭部にも「プシュ!プシュ!・・」次々に突き刺し、彩子の体をしっかりと捕獲したのだ。
「ううー!! ううーん!!」
「ジ、ジ、ジ。」
「い、痛―い!う、う!」
彩子
の顔が激痛で引きつった。一度に7本の動脈注射を打たれたような衝撃! すぐに左右の脚、左手首、右頭部の刺さった部位からは血液が流れ出てきた。左の太腿はスカートの上から刺されたため、2センチ程度の穴が開き、左太腿からの出血が見え、また、スーツの上から刺された右肩、左腹部の部位も2センチ程度の穴が開き、下に着ている白地のブラウスと出血の様子が見えていた。

 「誰か・・」
彩子
の助けを求める叫び声も、奴の雄叫びに打ち消された。
彩子の体は1メートルほど宙に持ち上げられ、持っていた封筒とファイルは路上に飛び散った。
「いやーー!! 助けてーー!!・・」

彩子
懸命に逃れようと全身でもがいていた。しかし、次の瞬間、奴の頭のひとつが大きく口を開け、
「バフ!!!」

彩子
の肩のあたりから両腕、胸部、腹部を身動きができないように挟み込んだ。両脚は自由が利くように見えたが、スーツタイトスカートでは、大きく振ったり、奴を蹴ったりする抵抗はできなかった。
「うぐうーーー!!」

彩子
はもはや抵抗する力を失った。
「ジ、ジ、ジ。」
すると、奴のへびのような手彩子の体から離れていった。

 「ギエエエーーーン!!」
また別の5頭の口が開き、例のオレンジ色のような溶解ガス、強烈な酢酸ガスを一斉に噴射、「ボワーーーー!!」わずかに頭を振り、両脚をばたつかせていたが、人間の有機物質の組織を分解する強烈な溶解ガスをまともに受けた彩子、
「ぎゃあああ!!」

「ボワーー!!」
「ぐうう!」
「ボワーー!!」
「つうー!
ぐほん!」
「ボワーー!!」

「げ!
・・
「ボワーー!!」
激しい酢の刺激臭風のガス
彩子の頭からパンプスまで包み込み、溶解ガスを吸い込んだ彩子は苦痛にむせながら
「げー!、げほん、げぼっ・・」
呼吸困難になり、

「く
・・」、次第に意識がなくなって、ついに絶命した。そして間もなく、へびのような手が刺さっていた両脚、左の太腿、左腹部、左手首、右肩、右頭部の部位、その穴から彩子緑色の養分ガスが噴出し始めた。

 「シュー、シュー、シュー、・・・」
その養分ガスは、溶解ガスを噴射している5頭ではない、残りの5頭(彩子の体を挟んでいる1頭も含めて)の口の中へ吸収されていった。実に効率的に、溶解ガスを噴射する頭と養分ガスを吸収する頭とが分業化されていたのだ。見る見るうちに白骨化していく彩子!! そのうち、溶解ガスの噴出量が減り、色も薄くなったが、逆に養分ガスは量が増え、色も濃くなり、そして勢いよく奴の口に吸い込まれていった。そのためか、化学反応か、彩子のパンティー、パンスト、ブラジャー、ブラウスは完全に溶解し、スーツ、スカートまでもが40%程度、ちぎれるように破損した。以前よりスピードアップし、約1分後、奴の捕食行為は終わった。奴は、無惨な残存体となった
彩子を路上に放り投げた。
「ズン!コツ、コ!」

これは惨い!彩子は全身白骨化していたが、破損したスーツ、スカート越しに背骨、腰骨が丸見えであった。若い女性の養分を捕食して満足した奴は、すぐに緑地公園の方へ飛び去っていった。

 なつみはパニックになっていた。
「亀のお化け、いっぱいある頭が、女の人を、オレンジ色のガスで、お酢の匂い、溶かして、緑色の気体を吸って、白骨になって、スーツもスカートも、ボロボロに、・・酷い。」

なつみ
の通報で、連続若い女性捕食事件のホシが人間外生物と断定された。翌朝、捜査本部で田倉刑事は、ホワイトボードに、これまで3件の犠牲者の現場写真をマグネットで貼り付け、各現場の状況について、比較表にしてまとめていた。

連続若い女性溶解被害状況比較
被害者(年令) 女子アナ 中瀬由里(27) OL 沢木恵美(23) OL 井関彩子(25)
被害日時 9月30日 23時30分 10月1日 23時40分 10月3日 19時05分
場所

山手区一丁目10番地

山手区二丁目1番地 山手区二丁目2番地
(白骨化状況) 100% 100% 100%
筋肉、内臓等溶解度合い
白骨の状況
全身 全身 全身
頭蓋骨 100%残存 90%残存 100%残存
(臭気) 焦げたにおいと酸味 焦げたにおいと酸味 酢の酸味が少々
(化学反応の跡) 白い湯気あり 白い湯気あり 湯気なし
(着衣など)
スーツ クリーム色、ライト

フェミニンスーツ

100%残存

黒色、グレーストライプ

テーラードスーツ

ほぼ100%残存

ダークグレー色、エレガント
フェミニンスーツ
60%程度の残存
スカート 100%残存 ほぼ100%残存 60%程度の残存
パンプス 白色イタリアンパンプス 黒色スタイリッシュパンプス 70%程度残存 黒色スタイリッシュパンプス  ほぼ100%残存
スカーフ ワインレッド色スカーフ消失

田倉刑事は、TVアニメ「名探偵コナン」のように、なぜ奴が3人の若い女性を捕食したのか、その理由、そして退治する対策まで考案したのだ。

1.宇宙から飛来して来たインベーダー、事件の犯人、遊星獣プラスドマイオスは山手区内の緑地公園の中の低木、雑草の山の中に身を潜めていた。

2.その公園から半径500メートル以内が奴の行動範囲で、奴は水に弱い。だから秋雨の

10月2日には出没していない。

3.奴は最初犬を捕食したが、養分が少ないので、より大きい人間を獲物にした。人間の体は水の割合が高いから、それを養分ガスにして吸収、捕食したのだ。しかも攻撃は2人目、3人目になるにつれ、より強化され速くなった。特に井関彩子の場合、1分程度で白骨化させられたため、現場での化学反応の跡、白い湯気は上がっておらず、臭気も少々酢の酸味が感じられた程度で、ある意味で奴の捕食行為は効率的、完璧に出来るようになった。

4.なぜ3人の若い女性ばかりが獲物になったのか。それは「音」への反応だった。3人共、靴が「パンプス」であり、そのヒールの音に反応して、捕獲する獲物を特定できたのだ。女子高生のなつみは「スポーツシューズ」を履いていたため助かったのだ。

5.しかし、なつみ彩子の路上での距離はわずか10メートルだった。この時2人共携帯で電話中であった。携帯の電波は奴にとって獲物の特定に障害となっていたのだ。だからふたりが携帯電話を切ってから、パンプスのヒール音がする彩子の方を狙った。

6.奴は3人の若い女性を捕食した。奴の頭はさらに増え、今度は人間より大きな獲物を求めるはずだ。

次に奴を退治するための対策について、田倉刑事によるとこういうことだった。
「毒には毒をもって征する」ということです。

欧州で発生した家畜の伝染病「口蹄疫」。この口蹄疫に感染した馬について、わが国でも、ある極秘研究所にて研究中であり、その研究中の馬を1頭囮として使うという。慎重に対応する必要があるが、口蹄疫の馬を例の緑地公園近くの路上に歩かせ、奴に捕食させる作戦だった。
実際に、馬の足音で奴をおびき寄せて、口蹄疫のウィルスに感染された馬の養分を捕食させ、飛び立つ直前に、近くに待機していた消防の大型放水車から大量の水を浴びせる方法で、作戦は見事に成功したのだった。奴は黒煙を上げ、ドロドロに溶け始め、小さな黒い粘土状の物質となって死んだ。

 恐怖の遊星獣プラスドマイオスを退治したのは、「仮面ライダー」ではなかった。3人の若い女性が犠牲にはなったが、被害を最小限に止めたのは、若い刑事の推理と知恵によるものであった。

 (終わり)