クチビルゲ〜1+1=1


作・丸呑みすと様


「クチビルゲよ、お前に新たな能力を与えた。早速使うがよい」

昼なお暗きドルゲ洞。深き地の底に位置する魔人ドルゲの巣窟。
ドルゲは己が使徒、クチビルゲに命じた。

「ハハッ、この能力を使って、一層励みます」

クチビルゲの前に、一人の女が放り出された。
グレーのツーピースを着たショートカットの女だ。年齢は二十代半ばといったところか。

「美味そうな女だ・・・」

差し渡し1メートルはある巨大な唇の端から唾液が滴り落ちる。

「いや、いやっ、嫌ああああああ!!」

女は立ち上がり、必死に逃げようとするが、クチビルゲは大きく口を開けると息を吸った。
”轟!”凄まじい音と共に風が流れ、女の身体がふわっと浮き上がると、クチビルゲの方へ引き寄せられた。

女の上半身が口の中に消え、グレーのタイトミニから伸びた脚がバタつき、奥の薄いピンクの布で包まれた秘所が見え隠れする。
クチビルゲは難なく女を呑みこんだ。

「お前の殺人スモッグや腐食ヘドロを噴出する能力を逆に使った吸引能力だ。これで離れた位置の女も捕えられる。もう一つの能力は、実地に使うしかない。その為にその女を与えたのだ」

クチビルゲの口がもごもごと暫し動くと、呑み込んだ女の着衣を次々と吐き出した。唾液まみれにこそなっていたが、ボロボロにもならず、ヘドロにも染まっていない。

「先に剥いてから呑み込めば、舌で脱がす手間を懸けなくて良かったかな」
呟くドルゲ魔人の腹は怪しげに蠕動し……

 
藤城あゆは視線を感じた。鏡の中に自分の後方から見つめる若い女性がいた。年の頃は自分より少し上くらいか。
此処はあるビルの女子トイレ。
メイクを直そうと入ったところだ。

あゆは高校生に間違えられる事も暫しある童顔だが、スカイブルーのニットのミニワンピースは、成熟したグラマラスなボディラインを現していた。クリーム色のカーディガンと同色のパンプスを履いている。


「あなた…美味そうだな」

女性の声も口調も急変した。

女性の右手があゆの襟を掴むとひと息に個室に引きずり込む。

「いやぁ、何する…」

声を上げようとするあゆの前で、女性はクチビルゲに姿を変えると、大口を開け、覆いかぶさるようにあゆに食いついた。

あゆの肩甲骨辺りまで延びた髪の毛までが魔人の口の中に消える。

魔人が身体を起こし、あゆの足が床から離れた。

ミニスカートから延びた脚がバタつき、服に合わせた水色のレースの下着が見え隠れする。

あゆの身体を丸呑みにしたクチビルゲは、人の気配がないのを確認すると、その姿はたった今餌食にしたあゆの姿になった。口から吐き出したあゆの着衣を身に付け、女子トイレをそのまま退出した。

「おかしいな」
提供された防犯カメラの映像をチェックしていた木戸麟太郎刑事は呟いた。
失踪したOL・藤城あゆはこのトイレから出て来たが、彼女について入ったはずのグレーのツーピースの女はそれから出て来た様子は無い。

「もう一人も捜索願いが出てるンだがな…1足す1が1…そんなわけが無いな」

これはいい。クチビルゲは思った。
喰った女の姿に化けることが出来る様になり、より獲物を追いやすくなったと……