女溶かし汚泥地獄
OL・木崎亜矢のケース


作・丸呑みすと様

(ここがアキとかちぃーちゃんが言ってたとこかあ)

今は夜、程なく午後九時になろうとしていた。駅前の繁華街から横道に入った所に、その店はあった。

周りがシャッターを下ろし、消灯した中でその店だけはショーウインドウが煌々と光を歩道に放っていた。

“ブティック・V”―同僚達の間で噂の、結構、遅くまでやってる新規の店だという。

ドアノブが回り、来客を知らせるベルの音が店内に響く。

「いらっしゃいませ」うやうやしく頭をさげたのはスーツ姿の男だった。

「・・・あの、なにか?」男の驚いた表情に問いかけたのは、さっきショーウインドウの前にいた女だ。

年のころは二十代前半あたり、黒いワンピースの上にクリーム色のボレロをかけている。

背は百六十を切り、小柄ではあるが身体にぴったりフィットしたワンピースには豊かな胸のラインが浮かび、ヒップのほうもそこから裂けそうなくらいに張っていた。

「い、いやこれは失礼、ここへいらっしゃるお格様のなかでも、これほど綺麗な方がお越しになるとは」

「ありがと、だからって買うかどうかは別問題よ」

女は笑った。栗色のセミロングの髪。クリっとした大きな目が印象的な彼女の名は木崎亜矢。

二十四歳のOLである。今度のパーティーで着るためのドレスを探している。

「それでは、ごゆっくり」店員はフィッティングルームのカーテンを閉めた。

店に他に客はいない。ちょっと懐かしめのポップスが流れているだけだ。

(じゃ、このオレンジのレギー・ドレスから)

亜矢はワンピースを脱ぎ始めた。ワインカラーのブラジャーとショーツ姿になる。

「いかがです、この体つき。お気に召されるかと」

薄暗い一室、闇の中にぼぉっとモニターの光が浮かんでいる。モニターの中に映し出されているには下着姿の亜矢だった。

モニターの前に座るずんぐりした影は、分厚い唇を舌で舐めつつ、半裸の美女の胸からくびれ、腰から腿へとあるはずの無い視線を舐めるように走らせていた。 そう、影の顔には巨大な口があるだけで、そこには目も鼻も無かったのである。

「俺の前に、この娘をだせ」

「はっ、了解です。クチビルゲ様」


突然、亜矢の足元が消えた。

「きゃあああっ」そこにできた一辺1メートル四方の穴が、半裸の若い女を悲鳴ごと呑み込んだ。

床がスライドして、穴を塞いだ。

「オルレアンのブティックは都市伝説とは限らない」店員はフィッティングルームの前に遺された亜矢のパンプスをさっさと持ち去った。

そして、別の店員に閉店準備を命じる。

「フフフ・・今宵はじっくり弄り、嬲り、踊り食いか」

亜矢は厚いマットの上で、二、三度バウンドした。なんとか体勢を立て直した亜矢に声を掛けるものがいた。

「このクチビルゲが主催の闇の国のディナーへようこそ」

振り向いて声の主を見た亜矢は絶叫した。それは悪夢から這い出てきたようなおぞましい姿だった。二メートルほどの背で、頭と肩幅はほぼ同じの、顔中が大口の化け物だ。

「お前は、メインゲストで、かつ・・・」

壁際で泣き叫ぶ亜矢ににじり寄りながらクチビルゲ

「メインディッシュだ」

クチビルゲの手が伸び、下着姿の女を掴むとぐい!と引き寄せた。

「やっ、いや、助けて」

「お前もあの女のように堪能させてくれるかい?」

魔人が顎をしゃくった先には、ヘドロにまみれたカットソーやスカート、下着類が散乱していた。

「あの女子大生は美味かった。お前も俺の中で悶え、溶けるがいい!」

亜矢のくびれたウエスト辺りまでが大口の中に消えた。

魔人が体を起こすと、亜矢の両足が地を離れた。

すらりとした脚がバタつき、86センチのヒップにワインレッドのビキニショーツが喰い込む。

クチビルゲの掌がぐいっと彼女の尻を押し,丸呑みを助ける。

飲み込まれた亜矢の肢体を魔人の舌が這いまわり、消化を助けるドルゲ菌を含んだ唾液が、彼女の肌にまとわりつく。

胃の中に滑り落ちた亜矢を待っていたのは、黒い、悪臭を放ち、発熱するヘドロだった。

かつて亜矢同様に、生きたまま飲み込まれ苦悶のうちに消化、分解された娘たちのなれの果てが、新たな生贄を取り込んでゆく。

死神の掌のごとく胃壁が、また一人の若い女の肉と骨と器官、そして生命を押しつぶしていった・・・

(終)