令嬢溶解
MaskedRider KABUTO #12 AnotherStory


作・丸呑みすと様



「また擬態したか!!・・・」
呟く天道総司の足元に若い女が泡まみれで横たわっていた。
ここは浴場では無い。週末の公園だ。
女の前髪に付けられた髪止めが午後の陽射しにきらめいていた。

都内某所に建つ超高級マンション。地下駐車場にヒールの音が反響していた。
シルクの青いドレスの上に毛皮のハーフコートを羽織った若い女性が歩いている。
このマンションの住人で、由香利という。
セミロング栗色の髪、色白で彫りの深い顔立ちには、育ちの良さから来る気品があった。
そして、大事なデートを控えた今日は、超一流のメイクアップアーティストによりさらに美貌に磨きがかかっていた。

シャラン・・・シャラン・・・耳障りな音が由香利を追い越していった。
ベージュのブラウスにグレーのパンツを着ている。
耳障りな音はベルトのケースに入っているケータイのストラップがたてたものだ。
髪の毛は後ろで束ねている。腰から尻へのラインからして女、それも若い。
女はくるりと振り返った。年の頃は由香利とそう違わない。前髪の髪止めが明かりに反射する。
にこやかな笑顔が豹変した。上目 遣いの憎々しげな目 つきだ。
「綺麗ねえ・・・」唸るように女が言った。
由香利は本 能的に身を竦ませた。
「綺麗」は由香利にとっては日々、挨拶代わりに言われる言葉だ。
だが、目 の前の女の口調は称賛でもお世辞でもなく、危険な空気を含んでいる。

女のパンツの裾から、白い泡が溢れ、床を濡らした。
女の右手にもソフトボ ール大の泡が、何時の間にか沸き立っていた。
女は笑顔に戻ると、右手を由香利に突き出した。

「んむうゥゥゥ――ッ!!」顔を泡に包まれた由香利はバランスを崩して転倒した。
鈍い音がする。薄い生地のスカートが捲れ、細く長い脚が太腿 の付け根辺りまで剥き出しになる。
泡は由香利の上半身を覆い尽くし、なおも膨れ上がりつつあった。
さらに、スカートの中からも泡が這い出し、由香利の高級な陶器のように艶やかな白い腿 の上を滑っていった・・・
push・・・push・・・何かが弾けるような音が少しの間、断続的に続き、駐車場に静寂が訪れた。

ワーム・・・地球上で云うところの昆虫等節足動物に似たこれらの生命体は、人の姿に擬態し、人間社会に潜伏している。
そして、その対象とされた人間は・・・

「誰だ!?こんな所に洗剤ぶちまけた阿呆は」マンション出入りの清掃作業員はぼ やいた。
少し青の混じった泡が点々と散らばっている。
「せっかく、早めに済ましたのになあ」
作業員は気づかなかった。泡のある辺り、よく見れば華奢な人の形をした染みが床に残っていることに。


由香利の姿が崩れた。その中から現われたのは緑がかった青い体表のミュスカワームだ。
天道の手が、カブトゼクターを掴んだ。「変身!!」