看護師・好珠の惨劇MaskedRiderKABUTO AnotherStory


作・丸呑みすと様


(あら、若林先生、なんでここに?)

三村好珠は首を傾げた。角を曲がった男の体型には見覚えがあった。夕方に下番した筈の外科部のベテラン医師だ。日本でもトップクラスのオペの技術を持つ、この病院の花形だ。

(緊急のオペでも…)と好珠は思ったが、すぐにその考えを訂正した。大の酒好きでもある若林は下番すれば早速行きつけの屋台でおでんを肴に一杯やる。そんな危ない真似をだれがさせるというのだ。とはいえ、こんな時間に何をしているのだろう?好珠は若林の後をつけ始めた。

 好珠は21歳の看護婦で、今は夜勤の病棟巡回の真っ最中だ。

切れ長の大きな眼とスッと通った鼻梁を持つ知的な美貌。栗色の長い髪は纏められてナース帽の下に収められている。薄い水色をしたミニワンピースタイプのナース服の下には美しい曲線を描く肢体が隠されている。

「先生」

好珠の声掛けに、若林が一瞬、ビクッと身を震わせた。

「どうなさったんですか?」

 ゆっくりと振り向いた中年医師の表情は能面の様に無表情だった。

「先生…?」

 医師の身体全体が小刻みに震えた次の瞬間、そのシルエットは膨れ上がり、たちまち背丈は2メートルを越え、体表のあちこちに突起状の棘を生やした白い昆虫を思わせる姿になった。

頭部の辺りの艶やかなオレンジが常夜灯に照り映える。さながらシロアリを思わせる異形の怪人だ。

「あ…あぁ…」

眼を大きく見開いた好珠は後ずさる。
怪人の口腔から白い霧が殺虫剤の様に噴射される。

「いやぁぁぁ!…」


悲鳴はジェットエンジンのような噴射音にかき消され、霧状のガスはあっという間に164センチの好珠の全身を覆い尽した。

怪人の吐きだした腐食性ガスは好珠の体表や着衣のみならず、鼻孔や口腔から入り込んで体内をも侵した。
そして、付着したガスは対象の物質構成に瞬時に変質を起こしていった…

 ばさっ、乾いた音が深夜の廊下に響く。
糸の切れたマリオネットのように好珠の身体が倒れ込んだ。

ぺきぱきぽき…

湯気を上げながら、かつての若い美人ナースだったものが干からびたパルプの様に崩れていった。好珠の亡き骸を前に怪人は愉悦の声をあげる…