ある女子高生の物語


作・taka様


如月理子は、スマートブレイン・ハイスクールに通う2年生。
この高校では、スポンサーである大企業、スマートブレイン社への就職はもちろん、あらゆる分野への就職、進学に通じていて、新設の学園ながら入学、在学生は多い。
中でも成績優秀、スポーツ万能の生徒4人で構成された「ラッキー・クローバー」は、学園での制約をある程度免除されるなどの特典が付くため、皆必死に学業に打ち込んだ。
彼らのシンボルは、上下共に真っ白な制服だった。

ある日理子は、親友の冴と共に補習を受け、帰りが遅くなってしまった。
「みんなよくあんなわけわかんない計算できるよね、なに二次関数のグラフって」
冴が愚痴を言う。
「本当、私もわけわかんない」
普段は愚痴を言わない理子も、思わずつられて愚痴を言った。その時ー
「よくないな、そういうのは」
突然の男の声に、思わず振り返る二人。そこには、上下共に白い制服を着た一人の少年がいた。
「百瀬さん!」
理子たちは同時に叫んだ。ラッキー・クローバーのリーダーで学園トップの天才、全生徒の憧れの的である。
それがどうしてここに?
「自分の愚かさを棚に上げ、愚痴をこぼす・・・やはり人間は愚かだ…」
人間は?どういうこと?
そんな疑問が理子の頭をよぎった直後、冴が小さな悲鳴を上げた。
「り、理子!あれ!」
冴が指差す方向を見た理子は驚きのあまり言葉を失った。百瀬の体が灰色に光ったかと思うと、虎のような怪物に変わったのだ。
(あれは・・・オルフェノク?)
噂には聞いていた。死した人間が甦り、変化する人間の進化系。人を襲って灰にするという化け物。それが今、目の前にいる!
百瀬が変化したオルフェノクは驚くべき速さで冴に近づくと、その心臓を巨大な爪で貫いた。
瞬間、冴の目が灰色に光ったと思うと、冴はそのまま体が灰になって崩れ落ちてしまった。
(冴が…いや、私も殺される!)
逃げようとしても遅かった。すでにオルフェノクの爪が、理子の心臓を貫いてしまった。


(ああ・・・私も死ぬんだ…)消えゆく意識で、理子は自らの死を悟った。

しばらくして、理子はゆっくりと目を覚ました。そこはつい先ほどまで自分たちがいた場所と変わらない。
そして目の前には、優しく微笑む百瀬の姿があった。
(私…生きてるの…?)
ぼーっとした頭で考えるが、状況が理解できない。すると百瀬が、うれしそうに言った。


「おめでとう、如月くん。君は我々オルフェノクの一員として甦ることができた。君は選ばれた特別の存在だ」
特別?私が?それ以前に私がオルフェノクって?
「君のお友達は残念ながら甦れなかった・・・だが君は素晴らしい力を得て甦ることができた。僕からもお祝いを言おう。
これで君は人間を超えた特別な存在となった。君は罪にも罰にも囚われない、最高の存在となったんだ」
ああ・・・やっと理子にも理解できた。オルフェノクに襲われた人間は死ぬとは限らないんだった。
確率的に、オルフェノクとして甦れる人間もいるんだって、噂にあった。
でも自分が、そうだったなんて!理子は満足感に浸った。不思議なことに、怪物になったという負の感情より自分が特別な存在だったという満足感が、今の理子にはあった。
「君はなろうと思えば、すぐにオルフェノクの姿になれる。さあ僕に、その美しい姿を見せてくれ」
「はい、百瀬さん」
理子は念じた。オルフェノクになりたいと。すると、理子の体は灰色に輝き、蝶の如き姿のオルフェノクへと変わった。
(きれい・・・これが私の姿?)
恐ろしいもので、つい先ほどまで嫌悪していた怪物の姿が、今はこれ以上ないほどに美しく感じられた。
「我々オルフェノクの使命は、愚かな人間どもを排除し、オルフェノクだけの崇高な世界を築くこと。君もそれを、忘れないように…」
「はい、百瀬さん」
人間の姿に戻った理子は、足取り軽く自宅へと帰って行った。すぐそばに、体のほとんどが灰化し原型をとどめていない冴の死体があるのも目に入らないように…

数日後の夕刻。下校途中の理子は、同じ学校のカップルを見つけた。
何となく後をつけると、、彼らは人通りの少ない路地に入っていった。
(せっかくだから・・・あの二人で力、試しちゃおうかな・・・)
恐ろしい考えが沸き起こるのと、路地に理子が足を踏み入れたのが同時だった。
「うらやましいなあ、お互いのことを愛し合えるなんて」
突然の理子の言葉に、キスをしていた二人は驚いて振り返った。
「お前、だれだよ!」
男の方が理子をにらんで言った。
「私は誰も愛せないの。・・・オルフェノクだから・・・」
言い終わると、理子の体が灰色に輝き、バタフライオルフェノクへと変身した。
「うわーっ!」
「きゃあああ!」
同時に悲鳴を上げるカップル。
理子はまず男をターゲットにした。
男の体をがっしりつかむと、肩から灰色の触手を伸ばし、男の口から侵入させ、心臓を貫いた。
心臓が消滅する感覚が、触手を通じて理子にもわかった。心臓が消えた人間は、甦れない。ー甦る者はいったん心臓が止まった後、再び動き出すー案の定、男は体が灰になり、その場に倒れこんだ。
次は女の番だ。理子が振り返ると、彼女は恐怖のあまり体を震わし、「やめてお願い助けていやいやいや…」とうわごとのようにつぶやいていた。
さらによく見ると、彼女の足下に小さな黄色い水たまりができている。恐怖のあまり失禁したのだ。
理子はそんなことはお構いなしに震える少女の体をつかむと、触手を彼女の二つの耳の穴から侵入させ、一気に心臓を貫いた。
少女の心臓は消滅した。
彼女はぴくぴくと体を震わせたまま、そのかわいらしい顔から灰になっていった。
やがて全身が灰になり、一気に崩れ落ちる。
その場に残ったのは大量の灰に包まれた制服だけだった。
(人によって灰化の程度は違うと聞いていたけど、肉体がなくなっちゃう人もいるのね。それにしても、素晴らしい力だわ。もっと襲いたい。今度はもっといたぶってから・・・そうだ、いいこと思いついた)

理子はその日帰らないことにした。
両親には適当に連絡し、そのまま学校の近くで深夜を待った。
深夜になれば、警備員が学校を見回るだろう。その警備員を襲おうと考えたのだ。
さて、深夜はあっという間に来た。初老の警備員が校内を見回り、最後に校庭などの外の敷地を見回る。
その時警備員は、この学園の制服を着ている少女が一人佇んでいるのを見つけた。
「あのー、うちの生徒さん?」
声をかけると、少女は言った。
「私、この学校には入れなかったの…」
「入れない…どうして?」思わず質問する警備員。
「だって・・・」少女は妖しく笑った。その顔に蝶のような紋章が浮かんでいる。
「オルフェノクだから」
言い終わると、少女の体は灰色に輝き、バタフライオルフェノクに変身した。
悲鳴を上げ逃げようとする警備員を投げ飛ばし、殴りつける。
腕を怪我したのか、警備員は片方の腕をかばって必死に逃げようとしている。
(そろそろやっちゃおうかな・・・)
理子が思った瞬間、背中に謎の痛みが走った。
(なに!?)振り返ると、そこには銀と黒の体をした黄色い目の謎の戦士がいて、警棒のような長い武器を手にしていた。
顔は、ギリシャ文字のΦ(ファイ)に似ていた。噂に聞いたことがある。人知れずオルフェノクと戦う仮面の戦士。その名は…
「ファイズ!」
理子は許せなかった。偉大なる力を持つ同族を、次々と殺していくこの仮面の戦士が。理子は懸命にファイズに立ちむかったが、ファイズは手に持つ警棒のような剣で何度も理子の体を切り裂き、強烈な一撃で吹き飛ばした。
(痛い・・・でも、逃げたくなんかない…!)
理子の目の前で、今ファイズはベルトになっている携帯電話のEnterキーを押した。

『EXCEED CHARGE』電子音が響き、剣が赤く光る。そしてファイズは、一気に理子のもとに走りよると、彼女の体を切り裂いた。
「あああああああああっ!」悲鳴を上げる理子。すると彼女の体は青い炎に包まれ、一気に灰となって崩れ落ち、消滅した。
それを見届けたファイズはバイクに乗り、警報が鳴り響く学園から姿を消した…

翌朝、理子が起こした騒ぎはすでに学園中に知れ渡っていた。理子の名は出ず、単に『オルフェノクが昨夜学園に侵入し、警備員を襲った』というものだったが。
警察に当夜の出来事を説明する警備員を横目に、生徒たちは口々に事件のことを話していた。
「またオルフェノクが出たのかよ」
「ああ、でもじいさん運が良かったな、ファイズが追い払ってくれたって」