華の命は短くて・・・・
作・丸呑みすと様
電子音が「レット・イット・ビー」を奏で、エントランスに午後5時半を告げた。
大手商社本社ビルで受付をつとめる高須めぐみは「本日の受付業務は終了させていただきます」と記されたプレートを机の上に立てた。プレートの隣には花瓶に生けられた花が花弁を開いていた。
「お疲れ」
めぐみは隣席の同僚たちと挨拶を交わす。
めぐみは24歳で入社2年目になる。
当初、配属の辞令を受けたときは「なんで、自分なんかが?」と思ったものだが。
同期の仲間や、学生時分の友人達からは「適材適所」だと言われたし、また実際にやってみると様々な人と出会える業務に面白みを覚えていた。
めぐみは鼻筋のすっと通った端正な面立ちにウエーブのかかった髪形がよくフィットしていた。
しかも、整っている顔立ちに有りがちな冷たい印象がなく、むしろ癒し系とでも言うべき暖かみのある優しさを感じさせている。外見同様物腰も柔和な彼女は同僚、上司はもちろん、出入り業者や一般来客からも評判が良い。
「あ、まだやってるんですね」
めぐみの声に振り返ったのは「フローラス・ダリアーノ」の女主人だ。
この店がいつ開いたのか誰も知らない。
しかし、品揃えが豊富なのと、手頃な価格で住宅街の住人達を多数、顧客として掴んでいる。
時刻は午後7時を少しまわったところだ。
「あら、いらっしゃい」
主人は笑顔を見せた、受付に置く花を買いに来るめぐみはいいお得意さんだ。
「・・・・そうだ、今日はちょっといい花が入ったの、あなたうちの店でよく買ってくれるから特別にサービスするわ」
主人はそう言って店の奥へめぐみを誘った。
「凄く綺麗ですね、これ」
めぐみの目の前に置かれた鉢植えには鮮やかな赤と黄色の花が咲いている。
「パプアニューギニアから取り寄せたの。綺麗でしょ、でもね・・・」
主人の声がトーンを落とした。
「花の命は短くてっていうとおり、この花は長くは咲いてられないのよ」
主人の視線は花を見るめぐみのピンクのスーツに包まれた肉感的な肢体の上をなめるように走った。
「・・・でも、いい養分さえあれば咲き続けられるわ!!」
めぐみの背後に廻り込んだ主人は突如としてめぐみに抱きついた。
「ちょ、ちょっと!!なにするんですか?!」
振りほどこうとするめぐみだったが、まるで動けない。
彼女を抱える主人の腕はいつしか、緑がかった青に変わっていた。
「貴方の美しさを私に頂戴」
声のほうへ振り向いためぐみは、そこに異形のものを見た。
顔の部分は赤と黄の大きな花、真ん中には一つ目 が光り、その下に青黒い管が下がっている。
「ひッ・・・ば、化け物ォ――!!」
「このドクダリアンをつかまえて、化け物とは無礼な!」
ドクダリアンの管が飛びかかる毒蛇の速さで伸びると、先端がめぐみの白い首筋に吸い付いた。
「や、いやッ・・・」
もがくめぐみだったが、その動きはやがて、緩慢になり美肌が血色を失って行く。
ドクダリアンの両腕に力がこもる。
めぐみはガックリ頭を垂れた。スーツもボ タンが弾けそうなほどに張ったバストがその美しいシェイプを崩していった・・・
冷たいコンクリートの床の上にはピンクのスーツや、ストッキング、さらにはくしゃくしゃに丸まったショーツが散乱していた。
「また、新しいお得意さんを見つけなきゃ」
ドクダリアンは呟いた。