Bloody Breakfast
作・丸呑みすと様
S区羽黒杜公園は東京23区内に在るとは思えない程に緑豊かで静かな癒しのスポットだ。
強い夏の陽射しを森の木々がやわらげている。
休日の朝、公園の遊歩道を散歩する一人の、小柄な若い女性の姿があった。年の頃は二十代後半。引き締まった顎のラインと大きな目の派手だが整った美人タイプである。肌は抜けるように白い。名を杉浦愛璃といい、都内の不動産会社に勤務するOLだ。
レモンイエローのブラウスの胸元は豊かに張り、ボタンがはじけ飛びそうだった。膝より少し上の丈の白いフレアスカートから伸びた脚は素晴らしいラインを描いている。
街で愛璃とすれ違った男はほぼ例外なく振り返り、向き合った男はほぼ例外なく胸元に視線を走らせる。彼女は同姓からは妬まれかねないくらいのフェロモンを常時醸し出していた。
そして、また一人彼女に惹かれるものがいた……。
それは音もなく飛来し、高い枝の上にティッシュペーパーを置くが如く降り立った。
長身痩躯。小さな瘤だらけの頭部。猛禽類のような鋭い視線。二の腕と脇腹をつなぐ膜状の翼。
腰に巻かれたベルトには大きな、鷲のレリーフが入ったバックルが輝いている。
秘密組織ショッカーの改造人間、ゲバコンドルだ。
枝の上の異形の怪人の眼が一瞬ギラリと光ると、その身を宙に踊らせた――。
愛璃は反射的に後ずさった。ダンスをやってたので身のこなしは素早い。
そいつはいきなり何もない所から現れた化け物だ。奇声を上げると、怪人は彼女に襲いかかった。
「い、嫌っ!」
身を翻して逃げる愛璃。
だがヒールの高いサンダルが災いした。前のめりにつんのめり転倒した。薄い生地のスカートが捲れ上がり、肉付きのいい太腿や小ぶりだが引き締まったヒップが剥き出しになる。ショーツは純白の総レースだ。
這うように逃げようとする彼女の上に怪人がのしかかった。口からのぞく一対の牙が愛璃の白い首筋に突き立てられる。
「あ、ああ?っ!!」
悲鳴を上げる美女の生き血を怪人は容赦なく吸い上げていく……。
空しくバタつかせていた脚の動きが次第に緩慢になり、動かなくなる。
一刻後、散歩中の老人が愛璃の遺体を発見し、通報した。
身体中の体液を吸い尽された彼女の遺体は生前の面影無く、枯れ木に衣類を着せたかのようだったという。