ハチ女  暗躍


作・ekisu様

素材No.1:スズメバチ 
素材No.2:青木奈美22歳



*フェンシング全国大会の会場

ウォーミングアップをしている奈美。168pの長身。木村佳乃をもう少し丸顔にしたような美人である。白いユニホーム姿は、安定した下半身が腰の括れを一層際立たせて見せている。面と剣を取るため自分のスポーツバッグの所でしゃがみこむ奈美。そこへ陽子が声をかけてきた。木本 陽子は常に奈美とトップを争っているが、あと少しという場面は何度もあったものの未だ勝利したことはない。

 「奈美、調子はどう?」
 「バッチリよ。」
 「私もよ。今日こそ私が勝つわ。」
 「そうはいかないわ。」

笑顔ではあるが、二人の目 は闘志をあらわにした厳しいものだった。奈美は面をつけ、後輩と軽く剣を合わせるために立ち上がった。陽子は奈美が自分に背を向けたと同時に、奈美のスポーツドリンクのボ トルと自分の持っていたボ トルをすり替えた。選手は皆その日支給された、大会スポンサーのロゴが入った同じストロー付きボ トルを使用していた。面を取り汗を拭く奈美。ドリンクを口にしたが、いつものドリンクではないことに気付いた様子は無い。


「ピッ」電子音とともにランプが点き、審判の手が奈美側に挙がる。
奈美は決勝戦で陽子を破り優勝した。
防具の面を取り、コーチに差し出されたタオルで汗を拭う奈美。
そしてホッとしたように笑みがこぼ れる。

「次は世界だな。今のお前なら金メダルも狙えるぞ!」

コーチはそういって奈美の肩を叩きながら他の関係者とはしゃいでいる。

 「みなさんありがとうございます」

うれしそうに満面の笑みで関係者達に礼を言いながら、係員に誘導されて
会場から出て行く奈美。不適な笑みを浮かべ、その様子を見つめる陽子。


*控え室

着替えをしようと、ユニホームのファスナーに手をかけた瞬間、誰かがドアを叩いた。

 「おいっ、開けてもいいか?」

コーチの声だった。

 「はいっ、大丈夫です。」

鍵をはずし、ドアを開ける奈美。そこには顔面蒼白で強張った顔のコーチが立っていた。

 「どうしたんですかコーチ!」

あまりの形相に驚きの声をあげる奈美。

 「陽性だ」

押し殺した呻くような声で話すコーチ。拳を握ったまま、信じられない、というふうに下を向いたまま首を左右に振っている。

 「えっ?今なんて?」

いぶかしげに問いかけるとコーチは急に奈美を睨みつけ、興奮を抑え切れずに彼女に迫った。

 「薬物反応だよ!」

そして彼女の両肩をつかみ、

「お前、何か心あたりはないか?何か飲んだか?誰かに変な物飲まされなかったか?」

 「痛いっ!」

 「はっ・・・」

我に返って手を放し、呆然とするコーチ。

「そんな・・・朝食は寮でみんなと同じ物を摂ったし、そのあとは

 コーチが作ったドリンクだけです!選手に選ばれてからは風邪薬だって飲んだことありません!」

「すまん。俺がこんなことじゃ。今から委員と協議しなきゃならないんだ。すぐに再検査してもらおう!絶対誤解を解いてやるからな。ここで待ってるんだぞ!」

と言い残すと、控え室を出て行った。

 「どういうことなの?何でこんな事に・・・」

頭を抱えて椅子に座り込む奈美。
その時、急に部屋の明かりが点滅し始めた。不思議そうな顔で辺りを見回す奈美。

「青木奈美、お前は栄誉あるショッカーの一員に選ばれた。我々の元に来るのだ。」

どこからか低い男の声が室内に響き渡った。

 「えっ?」

驚いて辺りを見回す奈美。

 「イーッ!」

いつの間に部屋に入ったのか、黒い目 出し帽に黒い全身タイツを着た男達が目 の前に3人立っていた。

 「キャーッ!」

奈美は叫ぶとドアの前まで逃げたがあっさりと捕った。男の一人が彼女の首筋に緑色の液体を注射した。

 「あうっ!」

すると奈美の目 の周りに青いクマが浮び上る。

 「うぐっうぐぅ・・・」

全身が痺れた奈美は、呻きながら気を失った。
次の瞬間、控え室のドアが開き、コーチが入って来た。

 「どうしたっ!奈美、おい、どこにいるんだ!奈美っ!」

部屋はそのまま、奈美だけが消えていた。


*立花レーシング

パイプをくゆらせながらソファーで新聞を読む立花。そこに滝が入ってくる。

 「おやっさんも暇そうだね。ショッカーがこうもおとなしいと体がなまっちまう。」
 「おいおい、冗談でもそんなこというなよ。それよりこれを見てみろ。」

自分が読んでいる面を滝に向ける立花。新聞を取る滝。

 「なになに?スペインで発見された新種のスズメ蜂が研究のために日本 に輸送中、何者かに奪われた?」

 「一刺しで牛を殺すほどの猛毒をもってるらしい。しかもこんなにでっかいそうだ。」

そういうと両手を肩幅程に広げて見せた。

 「そんなおおげさな。でも臭いな。これは調べてみる価値はあるな。」

そこに一文字隼人が入ってきた。そしておどけた口調で、

 「おっ、お二人とも、暇そうでいいですねえ。」

 「いい所に来た、それを見てみろ。」

新聞を一文字に向ける滝。覗き込んだ一文字の顔が真剣な顔に変わる。


カメラが一度引き、そして新聞のこちら側の面の記事がアップになる。そこにはこんな記事が小さな奈美の顔写真と共に載 っている。

失踪の青木選手自殺か?

丹沢山中で発見されたと自殺とみられる女性の焼死体は、歯型を照合した

結果青木奈美さん(22)であることが確認された。青木さんは5日前の・・・


*ショッカーのアジト


不気味な電子音が響く薄暗い部屋。直径2m程の丸い台の上に人が寝かされ、首から下は大きな白い布で覆われている。台の下にライトが仕込んであり、大の字になった女性のシルエットが浮かぶ。

 ガチャッ

台の上からとても明るいライトが照射された。手術用のライトだ。照らし出されたのは不気味に青白い奈美の顔だった。

 「ん・・・」

まぶしそうに、まるで朝眠りから目 覚めた時のように目 をゆっくりと開ける奈美。そして自分が硬い台の上に手首と足首を鎖で拘束されていることに気づく。動こうと手足に力を入れもがいてみるが、ガチャガチャと音がするだけで鎖が切れるはずもない。布と擦れる皮膚の感覚で全裸にされていることがわかった。

 「えっ・・・」

驚愕の顔に変わる奈美。

 「目 を覚ましたようだな。」

台の横に周りには白い目 出し帽に白い全身タイツのようなものを来た者達が数人と、黒いマント姿の背が高く痩せた老人、そう、死神博士が立っている。

 「ここは何処ですか?あなた達は誰なんですか?」

奈美は叫んだ。

 「我々はショッカー。改造人間による世界制服を目 指す秘密結社。」

感情のこもらない、静かな口調だ。

 「ショッカー?改造人間?」

 「これを見よ。」

手術台の横に並べられた大きなビーカーを指し示す死神博士。そこには人間の頭ほどもある大きな蜂の頭部を複眼、顎 などに分解されたものが透明な液体に浸かっている。そしてその横にはバスケットボ ールの倍 はあろうかと思われる蜂の尻部が、やはりビーカーの液体の中でまるで生きているかのように収縮を繰り返している。

 「お前はこの蜂を移 植した改造人間となり、我々ショッカーのために働くのだ。」

さらに無表情で静かに語る死神博士。

 「何を馬鹿なこと言ってるんですか。からかわないで下さい!それにあなた達のいいなりになんてなりません!早く放してください。」

 「もう遅いのだ。」

     

死神博士はニヤリとすると、白い全身タイツの男達に目 配せをした。

 「すでにお前の首から下は、我々ショッカーの一員なのだ。」

 「首から下?」

男達は彼女を覆っていた白い布を一気に剥いだ。

 「いやあ」

そして男達の一人が大きな鏡を彼女に向け、彼女にその体を映して見せた。

そこには、柿色と黒の縞模様で、艶のないビロードのような生地で出来た、まさに蜂の体のような模様の全身タイツを着、棘が付いたブーツ、向う脛、二の腕や肘から先には棘が付いたプロテクターのようなものを身に付けた蜂人間奈美の姿があった。

「ひっ・・・」

その姿に驚く奈美。しかし、改造人間なんてまだ信じられない。

「うそ・・・悪い冗談はやめて下さい、こんな格好をさせて!早く私を放してください!」

 「お前の体に丸5日間かけて蜂の細胞組織を移植、合成したのだ。見よ、人間と昆虫が融合したこの美しい体を。」

そう言うと死神博士の手は、腰から括れたわき腹、脇の下辺りまでをゆっくりと撫で上げた。

 「ひゃあーっ!やめて!」

不気味な老人に敏感な部分を撫でられた気持ち悪さに思わず声をあげる奈美。

 「!!!」

全裸にされていると思ったのは間違いではなかった。それは紛れもなく皮膚を直に触れられた時の感覚であったのだ。奈美は愕然とした。

 「そんな・・・まさか・・・」

 「神経は正常に接 合されている。脳改造を開始するのだ。」

死神博士は何事もなかったように、静かに言った。

アームの先に付けられた光線銃のようなものが奈美の顔に向けられる。

奈美は混乱し、ただ恐怖の中で泣き叫ぶしかなかった。

 「なにをするの!やめて!いやっ!」

 チュイーン・・・・

銃の先から青いレーザーのような光が、奈美の顎 の辺りに向けて照射された。

 「いやあぁぁぁ・・・うっ・・あぁっ・・うぅぅぅ・・・」

青い光は液体のように奈美の顔に広がっていく。叫び呻きながら光から逃れようと顔を激しく左右に振ったりのけぞらせたりする奈美。熱く痺れるような痛み、それも激痛が顎 から顔全体に、そして皮膚を越え骨から内部に染込んで来る。想像を絶する苦しみの中、奈美の意識は遠のいていった。

奈美の動きが止まり、頭部全体が光に包まれると光線の照射は終わり、青い光がひいてくる。と、その顔には蜂の頭部のような模様が浮かび出していた。

キラリと光るメスが奈美の顔にせまる。ビーカーの中身を取り出す手が映される。

点滅するカラフルな光にてらされた奈美の顔がアップになる。そして、短いオーバーラップを経て、奈美の顔は巨大な蜂の顔、いや、完成された蜂人間の顔となった。


*夜


練習帰りの陽子は自宅近くの住宅街を歩いていた。陽子の家は郊外の新興住宅地に有り、駅から離れると建っている家も少なくなる。道は暗く、申し訳程度の街頭が数十メートルおきに有るだけだ。

足音がついてくるような気がして陽子は立ち止まった。

 「誰っ?」

振り向いたが誰もいない。思いすごしかと歩き出すと、確かにもう一人の足音が聞こえる。怖くなった陽子は走り出した。すると足音も走り出した。陽子は近くの公園に向った。そこなら夜中でも明るいし誰かいるかもしれない。しかし公園に駆け込むとそこには誰もいない。うしろの足音は公園の入口あたりで消えた。

 「誰なのっ!出て来なさいっ!」

陽子は自分が来た方に向って叫んだ。しかしそこに人のいる気配は無い。

 「陽子」

すぐ後ろから自分を呼ぶ声がした。驚いて振り向くと暗闇の中に黒いマントで身を包んだ女が立っていた。女が2、3歩前に出ると、その顔が公園の照明の中に浮び上った。

 「奈美っ!」

女は静かな笑顔を浮かべて陽子を見つめている。

 「ちっ違うのよ、違うのよ、・・・」

まるで幽霊でも見たような顔で、ブルブルと震えながら陽子は後ずさりしてゆく。

 「あなたには感謝してるのよ、ほら」

女はマントを脱ぎ捨てた。すると蜂模様で艶かしい女性のラインをした身体が現れた。

 「ひっ」

驚きのあまり声が出ない。

 「私はショッカーの改造手術を受け、蜂女に生まれ変わったの」

 「か、か、か、改造人間?」

震えながらやっとの思いで問い返す陽子。

すると目 の前で奈美の顔はみるみる巨大な蜂の顔になった。

 「お前はショッカーの秘密を知った。だから死ぬだ。」

その声はもう奈美のものではなかった。

 「いやあああ・・・・!」

恐怖の叫び声をあげる陽子。そして逃げようと全速力で走り出した。

蜂女は相撲取りがシコを踏むように両足を広げ腰を落とし、そして前かがみに頭を下げた。すると股間から尻の部分が前へせり出し、その先は陽子へと向いた。

 ブーン

背中の羽が音を立てる

 パスッ

尻の先から毒針が発射された。

 プスッ

 「あうっ」

針は陽子の背中に突き刺さった。

 「は?・・・ぎゃあああああ・・・」

一瞬何が起こったのかと言う顔をしたが、すぐにその顔は苦痛に歪んだ。

 ブシューッ

尋常ではない声をあげる陽子の襟元から勢いよく白い泡が吹き出した。陽子はバンザイの恰好をしながら蜂女の方を振り向くと仰向けに倒れた。

 ドタッ。ジュブジュブジュブ・・・

襟の泡の勢いはおとろえたものの、両袖と両裾からも吹き出してくる。

 「うぐ・・・うぐ・・・」

泡の中でもがいていた陽子の動きが止まる。泡の中に白骨が浮かびあがるが、それもすぐに崩れてゆく。そして泡も地面に吸い込まれるように消えて行き、あとには陽子の乾いた衣服が、人の形に丁寧に並べたように残っているだけだった。


おわり