Beauty vanish 
into shifting sand


作・丸呑みすと様

 もしその光景を見た者が居るならば、自分は狂ったと思うだろう。

抜けるような青空に亀裂が走ったかと思うと、まるでガラスのようにその一角が砕け
散ったのだ。

割れ目から緑色の妖しく光る複眼が遥か下界を舐めるように見渡している。
彩苑女子大のキャンパスは都心部にしては緑が多い。この大学で情報工学を専攻する藤倉かなは昼休みや講義の間に芝生で語らうのが大好きだった。今日の話題はゴールデンウィークの沖縄旅行の件だ。

「かなはもう新しい水着買った?」友人が尋ねてくる。
「ん〜、まだなのよ。今日の帰りにでも探そうかなって」
「まぁ、かなはどんな水着でも似合うし。ホント、アンタと海行くとあたしなんか引き立て役にしかなんないもんね」
「もう、何言ってんのよ」

かなは、背こそ160を切るが、メリハリの効いたグラマラスなボディと小麦色の肌
を持つ健康美人だ。

ライラック色のミニワンピースの上に白いボレロを羽織り、ボレロと同色のパンプスを履いている。

「そろそろ行かないと間に合わないよ」かなは立ち上がると、歩き出した。

遥か虚空の複眼が一瞬、明滅した。

「この娘だ!」

轟!! ジェットエンジンを思わせる爆音がキャンパス一帯に轟く。

「きゃあああ――!!」

悲鳴を上げるかなを中心にして砂混じりの風が渦巻く。

「か、かなぁぁぁぁ―――」

友人が最後にみたかなの姿は、風で浮き上がるスカートを抑えようとする中、砂竜巻のかき消すように消えるそれだった。

かなの足元が崩れた。芝生から踏み出した煉瓦敷きのはずが、さらさらの砂になっている。

砂地そのものが大きく落ちくぼんで、深さ十数メートルのすり鉢状の穴へと変わる。

「助けてぇ―――」

必死に斜面を掴むが、指の間から空しく砂が抜けて行った。

斜面を滑り落ちるかなのスカートは大きく捲れあがり、肉付きのいい太腿や薄いピンクのショーツが食い込んだ肉厚のヒップが剥き出しになる。

穴の底で、緑の光が点滅した。そして砂を分けるように象牙色の、一対の牙が現れた。

牙はかなのGカップの胸の少し胸の下を挟み込んだ。

「ぐばぁ!…」

強大な圧力が肉と骨と器官を押しつぶす。
鮮血が口と両目、両耳から噴き出した。

苦悶の表情を凍りつかせたままのかなはそのまま砂中に沈んで行った…。

ぐちゃ・・・ぐちゃ・・・ぼきっ・・・ぱきっ 
蟻を思わせる巨大生物が哀れな獲物を咀嚼していく。

肉食性の蟻と宇宙怪獣が、異次元人ヤプールの手により融合し誕生した超獣アリブンタ。異次元蟻地獄を発生させて獲物を捕えて喰らう。

かなと同様、O型の血液型の若い女性が次々と地中に消える事件が続発するのはそれから間もなくであった。

(終)