クモシノビの恐怖


作・taka様


「起きろ!クモシノビよ・・・」
暗い洞窟に不気味な声が響く。
「血車党最強の化身忍者クモシノビよ、さぁ、目覚めるのだ」
声の主は骸骨丸、血車党の上忍である。
その声に従うように、蜘蛛のようなおぞましい姿の『化身忍者』が、ゆっくりと起き上った。
「お前の使命は我らに歯向かう愚か者、変身忍者嵐を倒すことである。だがお前は、自分の力をまだ知るまい。それゆえ今から、お前の力を試す機会をやろう」
そう言うと、骸骨丸は念力を使い、クモシノビにある風景のイメージを送り込んだ。
それは、とある里だった。
「今お前が見ているのは、とある忍者党がくノ一(女忍者)を養成するために開いた隠れ里。こやつらは将来、我が血車党の敵になりかねん。お前の力を試す良い機会だ、この里の者どもを皆殺しにせよ」
骸骨丸からの指示を受け、さっそくクモシノビは里に向かった。

里にいるのは師範を除いてみな女性で、忍術の基礎について学んだり、肉体訓練を受けている若い娘がほとんどだった。
そして彼女らを、師範や現役のくノ一たちが鍛えていた。
「わが分身の人喰い蜘蛛たちよ、餌ならあの里にいくらでもいる。思う存分喰らうがいい!」
そう叫ぶと、クモシノビは里の上空に自らの分身である無数の小さな人喰い蜘蛛を放った。
「うっ、ううぅぅ・・・」
上空から落下してきた無数の人喰い蜘蛛になすすべもなく、師範は倒れこんだ。
人喰い蜘蛛は師範の肉体だけでは飽き足らず、消化酵素の強い牙で骨まで溶かしていった。
人喰い蜘蛛たちが師範の体から離れたときにはもはや彼の肉体や骨は消滅し、残っていたのは彼が身につけていた衣服だけだった。
「いやあああぁぁぁっ!」
「やめて、食べられちまうのはいや!」
里に若い女たちの悲鳴が響く。
しかし無情にも人喰い蜘蛛たちは彼女らの柔肌に食らいつき、骨まで溶かしていった。
建物の中に逃げ込んだ者達も、わずかな隙間から入り込んでくる人喰い蜘蛛達に抗う術もなく、一人、また一人と餌食になっていった。
やがて、里のあちこちから聞こえていた悲鳴が一通り鳴りやんだ頃には、里に人間の姿はなくなっていた。
そこには中身を喪い、萎んだくノ一たちの衣服が無数に散乱していた。

「姉さま、もう大丈夫かな?」
一軒の小屋に逃げ込んでいた幼い少女が、姉さまと慕うくノ一・風香に声をかけた。
「分からない。楓、油断は禁物だよ」
楓と呼ばれた少女は震えながらうなずいたが、突如鋭い悲鳴を上げた。
「きゃああぁぁーっ!」
何事かと振り向いた風香は驚きのあまり声も出なかった。
いつの間に忍び込んだのか、小屋の中にクモシノビが姿を現したのである。
「まだ生き残りがいたとはな。ちょうどいい、俺も味わうとしよう」
そう言うとクモシノビは口から糸を吐き、楓を縛り上げた。
「助けて、姉さま助けて!」
風香は助けようとしたが、いつのまにか血車党の下忍二人に羽交い絞めにされ、身動きが取れなかった。
「やめて、楓を殺さないで!」
必死に叫ぶ風香だが、クモシノビは口の針を楓に突き刺した。

「きゃあああぁぁぁっ!」
楓の絶叫が響く。
クモシノビは口の針で、楓の体液を吸収し始めた。
まだ幼い体は吸われるたびにビクン、ビクンッと痙攣し、徐々にその肉体が干からびていく。
「いやああぁぁーっ!」
風香が悲鳴を上げる。
体液を吸い尽くされた楓は完全にミイラと化し、どうと地に倒れ伏した。
「最後はお前だ、人喰い蜘蛛の餌食になるがいい!」
そう叫ぶと、クモシノビは数匹の人喰い蜘蛛を風香に投げつけた。
身動きの取れない風香によける術はなく、人喰い蜘蛛は彼女の肉体に喰らいついた。
「うぅっ、あぁっ・・・」
風香が苦しげに呻く。
倒れこんだ風香の肉体に人喰い蜘蛛たちがむしゃぶりつき、やがて彼女は骨すら溶かされてこの世から消滅した。
残ったのは彼女が身につけていた空の衣服だけだった。
これでこの里から人間は完全に消えた。

「この力で嵐とやらも倒して・・・うっ、ううっ!?」
クモシノビは自らの体に起きた異変に狼狽した。彼の肉体が突如として痙攣しだしたかと思うと、みるみる砂となって崩れ落ちていった。
「う・・・うおおおぉぉぉっ!」
やがて断末魔の悲鳴を上げて、クモシノビの体は完全に崩れ去った。
「化身忍術に体が耐えられなかったか・・・ふん、弱い奴め」
一部始終を見ていた骸骨丸が吐き捨てた。
「だがこのようなことであきらめる血車党ではない。今に見ておれ、嵐よ!」
そう叫ぶと、骸骨丸は無人の里を後にした。新たな化身忍者を生み出すために・・・