日本民間放送連盟が「青少年法案」に質問状
                金曜アンテナ/週間金曜日2002.1.11号
 日本民間放送連盟(氏家斉一郎会長)は昨年一二月一四日、自民党が今年の通常国会へ提出を予定している「青少年有害社会環境対策基本法案」に対する質問状を同党に提出した。法案をまとめたのは、「青少年を取り巻く有害な環境対策の推進に関する小委員会」(田中直紀委員長)。
 
 同法案は、新聞を発行したり、番組を放送する行為を「商品または役務(サービス)の提供」と規定。メディアに対し、一八歳未満の青少年に「性もしくは暴力に関する価値観の形成に悪影響」や、「性的な逸脱行為、暴力的な逸脱行為もしくは残虐な行為を誘発し、助長するおそれ」のある表現を含んだ記事や番組の提供を自主規制することを求めている。報道分野でもこれらの表現を含んでいれば規制対象となる。
 
 法案は実効性を確保するため、新聞や放送、出版、情報通信業界などに対して、自主的に「青少年有害社会環境対策協会」(以下、対策協会)を設立することを求め、国は対策協会が守るべき基本方針を作成し、主務大臣や都道府県知事が助言・指導や勧告・公表などの権限を使ってメディアを監督できる仕組みとなっている。しかも主務大臣には警察庁長官や国家公安委員会も指定できるなど、表現・報道領域に警察行政を関与させる。
 
 つまり対策協会は、戦前、国策に協力させた日本新聞連盟や日本出版文化協会などの半官製団体に近い性格を持つことになる。また、非加盟のメディアに対しては、内閣総理大臣が指定する「青少年有害社会環境対策センター」が対策協会の役割を果たし、すべてのメディアが事実上、政府の監督を受けることになる。
 
 質問状では、
@民放連など業界が自主規制に取り組む中、法案はなぜ必要か、
A規制対象をどのような範囲で想定しているのか、
B助言・指導の判断基準は何か、
C勧告・公表は、言論・表現の自由への介入とならないのか
D助言、勧告に異議申し立てを認めないのはなぜか
 一など八項目について見解を尋ねている。
 
 民放連・放送と青少年問題特別委員会の亀渕昭信委員長(ニッポン放送社長)は記者会見で、「憲法で保障されているメデイアの表現活動の自由を行政の監督下に置こうとしている」と法案を批判し、民放連として反対していく方針を明らかにした。一方、田中委員長は「表現の自由を不当に侵害しないように留意する条文も設けている。メデイアにも理解を求めていきたい」と話している。
 
 法案は、対策協会を通じた業界による自主規制の形式を取りながらも、勧告や公表という事実上の制裁権を主務大臣に与える統制色の濃い内容で、公権力による表現・報道の自由への不当な介入を招きかねない。(毎日新聞記者 宏士氏)
 
 
 
防衛秘密  テロに乗じた法改正に異議
                   田島泰彦(上智大学、憲法・メディア法)
                        (朝日新聞2001年10月26日)
 
 9月のアメリカでの同時多発テロを機に、軍事・防衛にかかわる秘密保護を強める動きが急浮上し、国民の知る権利や報道の自由が不当に制限されかねない事態が生じている。
 
 (略)
 既存の自衛隊員の守秘義務規定に加え、新たに「防衛秘密」保護のシステムを導入する自衛隊法改正案が参議院で議諭されている。これは、「防衛秘密」を指定する権限を防衛庁長官に与え(96条の2)、自衛隊員だけでなく、一般の国家公務員や民間業者も含む「防衛秘密を取り扱うことを業務とする者」がこの「防衛秘密」を漏らすことを5年以下の懲役という重罰で処し、その共謀、教唆、扇動に加えて、未遂犯、過失犯、国外犯も罰する(新設の122条)という提案である。
 
 別表に10項目にわたって列挙された秘密指定の対象となる事項は広範であり、長官の指定を厳格に縛る仕組みも用意されていないので、秘密が濫用され、防衛に関する情報が広く国民の目から隠される危険がある。漏洩の処罰対象となる人や行為を広げ、刑も重くするとともに、漏洩の教唆なども処罰することにより、防衛情報を取材、調査するジャーナリスト、研究者、市民などの正当な活動が制約や妨害を受け、処罰さえされる危険が広がった。
 
 これは単なる自衛隊員の服務規律を越えて、「防衛秘密」そのものを正面から保護する制度の発足を意味する。かつて自民党が提案し、国民の強い反対で挫折した国家秘密法の部分的な導入にほかならない。別個独立の立法に等しいこんな重大な措置を、テロ対処のどさくさに紛れて、しかも自衛隊法の改正などという姑息な手段で、まともな議論もなく突然提案するのは、許しがたい暴挙としか言いようがない。
 
 これだけでなく、与党の中からは来年の通常国会で有事法制を立法化すべきだとする声が公然とあがっていることも報じられている。「有事」を正面から認める法体制が構築されれば、言論や情報が統制されるのは不可避である。
 
 近く審議開始が予想される個人情報保護法案をはじめとする一連のメディア規制措置に加えて、今回の国家秘密の強化と次に控える有事法制の仕組みが整えば、憲法21条の表現の自由条項は事実上改正されたに等しい深刻なダメージを被ることになる。(略)
 
 
 
「国家秘密法」の亡霊の復活、そして戦争への道を突き進む日本 平和の種をまき続けよう!          
                  「ピースネットニュース」2001年11月号
 
 この「自衛隊法改正案」では、対象者として自衛隊員などの公務員だけではなく防衛産業の民間企業の労働者も含まれ、さらに「教唆・扇動」そして新たに「共謀」した者も罰則の対象とすることから、ジャーナリスト・マスコミはもちろん一般市民も対象となっています。罰則が減刑され、外交秘密が外されているとは言え、この法律により防衛問題を批判することも調査することも困難となりかねません。そもそも何が秘密であるかは明らかにされず、それを指定する基準ですらはっきりしていないということで、政府の恣意的な運用が可能であり、使い方次第でとても怖い法律になりかねません。
 
 
 結局、この「自衛隊法改悪」で、「軍隊」に対しての文民統制は、「防衛秘密」を盾に不可能になってしまう。人々は、自衛隊に関する情報を知ることができなくなってしまう。防衛庁と特定の業者が癒着し、自衛隊の装備調達機構がブラックボックス化し、際限ない税金がそこにつぎ込まれていくだろう。この「自衛隊法改悪」は、防衛庁や軍需産業による国会へのクーデターとも言える。
 
 
 
「言論の封殺」を許すな
                 斉藤貴男(ジャーナリスト)
                       (朝日新聞2001年5月15日)
 
 これでいいのか、しょくん!
と、天才バカボンのパパを気取ってみたのはほかでもない。恐ろしすぎで怖いのだ。
 
 今国会で審議される個人情報保護法案である。もとはといえば一昨年夏、改正住民基本台帳法の成立が国民総背番号体制へとっながらないようにと準備され始めたはずの法体系が、いつの間にか言論統制の道具にすり替えられていた。
 
 法案は<放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関>の報道には適用されないという。組織に属さない私のような物書きや出版社への言及はない。そこで関係者が集まり、さる10日に議員会館で公開討論会が行われたのだが、ほかならぬ藤井昭夫・内閣官房内閣審議官の説明で何もかもはっきりした。
 
 藤井氏は「報道の自由は尊重する」と言った。ただし、一つ一つの記事なり番組が報道に該当するかどうかは内閣府の判断による、とも。おカミが報道だと認めなければ適用除外もクソもなく、内閣府の長は報道側に情報源の開示を求めることができ、取材源の秘匿を貫けばチョーエキ刑が待っている。
 
 新聞も雑誌もフリーも、この点に変わりはない。事実上の言論封殺法。ジャーナリズムが大本営発表に成り下がる時代が、またしてもやって来てしまう。ウソのようだが本当だ。(略)
 時代は「いつか来た道」へ。レレレのレ?なんてボケてたら、今度こそ手遅れになる。