Text - Movie


"Movie" Menu] ["All Movies"


ホワイトアウト
●●●●



 かつて原作を読んだときの強烈な興奮と感動。それを未だに忘れられずにいる私ですので、今回の映像化にもかなりの期待と、同時に不安をも抱いていました。
 主役が織田裕二と聞いたときには正直言って違和感を覚えましたけど、公開直前の予告編を見て、いい方向に期待は膨らんでゆきました。

 でも実際に本編を見ての感想としては、どうにも物足りなさを感じてしまったというのが率直なところです。原作の良さを活かしきれていないのはもちろんのこと、ひとつの映画としても、あちこちにアラが目立ってしまっていました。

 アクション面に関してだけ言えば、なかなか頑張っていたとは思います。緊張感を緩ませず、ラストまで退屈させずに見せようという前向きな試みの意識とこだわりは感じ取れました。
 しかし、その他の部分がいけません。人間関係の絡みや登場人物それぞれの描写、つまりは原作にあったドラマ部分が、ほとんど表面を舐めただけのものに終止してしまっているのです。そのために私などは最後まで気持ちが入りこんでゆけず、ラストの盛り上がりやエンディングも、どこか冷めた目でしか観ていることが出来ませんでした。
 そもそもこの原作の魅力は、錯綜する思惑や想い、そして策謀が渦巻く中で生まれてくる人物劇にこそあったはず。それが原作を単なるアクションだけの娯楽作に留まらせず、奥行きと深みのある、読み応え充分の作品に昇華させていました。その肝心かなめの部分をスポイルしてしまっては、せっかくの名作を映像化した意味も大きく失われてしまいます。
 例えば織田裕二と石黒賢の絆の深さ、あるいは織田が恋人を死に追いやったと思い込む松嶋奈々子の心的葛藤、そしてテロリストたちの中での衝突やいさかい、こういった部分をあとちょっとでもいいから掘り下げて描いて欲しかった。そんな大げさな物でなく、小さな挿話でも構わないんです。それがあることによって、観客の感情移入の度合いは大きく変わってくるものなのですから。

 また、物語そのものの流れも、なんとも説明不足で舌足らずといった印象を受けてしまいました。もしかしたら、原作を読んでいなければ理解できなかった所も多かったかもしれません。特に、テロリストたちが通信設備に仕掛けたトラップに関する部分など、今ひとつピンと来なかったという人のほうが多いのではないでしょうか。アクションを主体に作りたいがゆえの処置なのかもしれませんが、はしょり過ぎて観客を混乱させるようでは逆効果でしょう。

 結果として、アクション面での頑張りは感じられるものの、当然ながらハリウッドには及ばず、かといってそれをドラマの厚みで補うということも出来ていないという、凡庸な作品に終わってしまっていたように思います。期待が大きかっただけに、残念です。もちろんこれは、日本もハリウッド並みに作れなんて無理を言っているわけではありませんよ。ただ、予算が少ないなら少ないなりに、もうちょっと他の作りようがあったんじゃないか、という事です。

 あと、主人公が織田裕二というのは、やっぱりちょっとイメージにズレがあるんだよな……。私としてはもう少し渋めの人物を考えていましたし、あとこれは今の時期だと仕方ないことではあるんですが、観ている間どうしても、『踊る大捜査線』での彼とキャラクターがカブってしまいますから。
 俳優でいうと誰がいいんだろう。すぐには適役が思い浮かびませんが、例えば役所広司あたりだったらどうだったでしょうね。体力的には無理があるだろうけど……。



(00.09.12)