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 潜水艦を題材にした映画というと、どうしても『眼下の敵』や『Uボート』、あるいは『クリムゾン・タイド』といったような名作と比べられてしまいます。これはもう一種の宿命といってもいいでしょう。観客も当然、それら諸作品と同等か、もしくはそれ以上の感動や興奮を求めるはずです。
 しかしこの映画には、そういった名作群と比した場合に、決定的に欠けているものがあります。それは、「ドラマ性がない」ということです。

 潜水艦内部における苦闘の描写は素晴らしい。閉じ込められたボロボロの潜水艦の中、死の恐怖と戦う緊迫感や閉塞感の見事な演出で、ラストまでまったく息を抜く暇を与えません。頭上で爆雷が次々に炸裂し、そこかしこのパイプから浸水しまくるその様子は、あたかも自分がその場にいるかのような錯覚さえ感じさせてくれます。そういった点では、かなりのクオリティを備えていると言えるでしょう。

 しかし、それは「単純な娯楽映画」として観た場合のこと。この映画は人物描写が浅く、そのために、苦闘の中で生まれてくるべきドラマ性に欠けてしまっているのです。ことに、先に挙げたような諸作品と比較してしまうと、その欠点はいっそう際立ちます。作品の中で、あくまでスリルある現象面しか描かれていない。これでは極端な話、『ミッションインポッシブル2』などの娯楽作品を見ているのと変わらないのです。

「娯楽として面白いんだからそれでいいじゃないか」という声もあるでしょう。それはまったくの正論です。名作と単純比較されて批判されるより、あえてドラマ性を排除し、サスペンス・アクションとして見せる方向を選んだのは、ある意味では正解だったのかもしれません。
 でも、これだけ重厚で渋い雰囲気をかもし出せる手腕を持った監督が、「単なる娯楽映画」で終わってしまっているのは、何とももったいない感じがします。見る前の期待が大きかっただけに、それは尚更です。次回作を楽しみに待ってみたいところですね。



(00.11.04)