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ターン
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 突然の交通事故に遭ったはずの主人公・真希は、次の瞬間、何ごともなかったのように自宅の座椅子で目覚める。怪訝に思いつつも日常生活に戻る真希だったが、やがて、一日が過ぎると全ての事象が一日前の状態に戻ってしまうことに気付く。そればかりでなく、街のあらゆる所から、人を含めた生命体が全て、自分だけを残して消え去っていた。絶望的な孤独の中で途方に暮れたままの半年が過ぎた頃、鳴らないはずの電話が突然、鳴った――。

 時間が過ぎるということ、そして明日が来るということの意味を、じんわり静かに問いかけてくる作品です。
 静かではありますが……この作品は、怖い。なにが怖いって、フィルム上に見事に具現化された「人っ子一人いない世界」の圧倒的なリアリティが、です。誰もいない、虫の声さえしない世界。下町の風景だけならまだしも、白昼の新宿駅前まで完全無人の光景を映像的に作り出しているのが本当に凄い。こういったシーンではBGMさえ一切なく、自分自身も異世界に紛れ込んだような感覚に息が苦しくなってくるほどです。これらのシーンだけでも体験する価値はありますよ。

 この作品の主人公は、一日が過ぎればまたリセットされてしまう無為な時間の繰り返しに巻き込まれてしまいます。しかし今我々が生きているこの世界と、永久にターンする世界とで、いったい何が違うというのだろう。時間というものは、それを費やす人間がいかに意識するかで、有為にも無為にも変わってゆく。であるならば、どちらの世界にいたにせよ、結局は時間の有り様は人の意識に委ねられることになる。この作品の大きなテーマはまさにここにあり、それを押しつけがましくないかたちで描くことに成功している良作だと思います。

 とはいえ、細かな部分ではいろいろと不満もありました。
 まず、映像は綺麗なのだけども、全体的な雰囲気に何ともいえない野暮ったさがあります。役者選びもそうですし、原作のアレンジ具合に関してもそう。あちらこちらに、やや前時代的なセンスを感じてしまいました。
 それからなんといっても、肝心の主役を演じた牧瀬里穂、彼女に魅力を感じられなかったのが痛い。世界に自分ひとりという設定上、どうしても独り言の台詞が多くなるのは仕方ないとはいえ、これが妙に説明口調で非常に不自然。いちいち解説しなくていい! とまで思ったほど。脚本の問題もあるのでしょうが、演技にももう少し自然さが欲しかったところですね。
 なんだか牧瀬にもう往年の瑞々しさが感じられなくてねえ……。果たして役柄のせいだけだったのでしょうか。時の流れの無情さを、ある意味一番強く感じた部分かもしれません。



(01.10.19)