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 アメリカとメキシコ、この二国にまたがって、麻薬と闘いそして翻弄される人々の姿を描き出した作品です。三つのストーリーを同時に進行させつつ巧みに交差させることで、錯綜するドラマが多面的に語られてゆきます。

 私の去年のお気に入り映画のひとつ『エリン・ブロコビッチ』を手がけた監督であるスティーブン・ソダーバーグの演出は、実に歯切れ良くスマート。二時間半に渡る長丁場でも、全編に静かな緊張感が満ちており、間延びした印象をまったく与えません。また、場面ごとに色調を変えることで個々のストーリーの流れを捉えやすくしたり、ザラついた映像でドキュメンタリーフィルム風の雰囲気を与えたりといった手法も、大きな成果を上げているといえるでしょう。

 しかし残念なのは、肝心の物語そのものが、やや舌足らずなものに思えてしまったことです。序盤、バラバラのストーリーが並行して進むことの意図がなかなか掴めず、もどかしさも感じました。全体像が見えてきた頃になっても、さらには全てが語り終えられた時にも、全体を振り返ってみると、ハテこの作品は一体何を伝えたかったのだろうと首を捻りたくなってしまうのです。雑な言い方をすれば、中途半端な三つの話をただ繋ぎ合わせただけ、とさえ受け取られかねない内容でした。長大なドラマのダイジェスト版を観ているような感覚ですね。ここらあたりは、スピーディな演出がもたらした功罪といえるかもしれません。

 何よりこの映画からは、本来は要のテーマとなるべき、麻薬というものの持つ怖さや恐ろしさが、一向に伝わって来なかったのです。日本とアメリカとでは一般社会での麻薬の浸透度がまるで違いますから、今さら語るまでもないという判断なのかも知れませんが。ともあれ、日本という国に住む人間にとっては、今ひとつピンと来ない部分があったのは事実。その辺も含めて、もう一歩踏み込んだ描写や表現が欲しかったところです。

 ――なんだか悪口ばかりになってしまいましたが、これは決して出来の悪い映画というわけではないのですよ。何度も言うように演出技法には卓抜したものがあるし、俳優たちの演技もそれぞれに立派で、観終わった後にいろいろと考えさせる、重厚で骨太な作品です。観て損はないことだけは確かですね。
 とはいえ、「アカデミー賞など各賞総なめ!」みたいな絶大な前評判を看板として掲げられてしまうと……うーむ、果たしてそこまでの作品か? と疑問に思えてしまったりするのでした。どうも私、そういう冠付きの作品とは、相性が良くないみたいです。オマエに見る目がないだけ、と言われてしまえばそれまでですけど。

 しかし……マイケル・ダグラスの娘役のコ、ほんとうに気持ちよさそうに麻薬吸うんだよな〜。あれ観て、「俺もちょっとやってみたいなー」とか思わされたのは、私だけではないでしょう。下手なグルメ番組よりよっぽど食指を動かされます。かなりヤバいです。作品本来の趣旨からすれば、これはむしろ逆効果かも。



(01.04.05)