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タイタニック Titanic
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 悲劇の豪華客船を舞台に、運命に翻弄される男女の愛と悲しみの物語。

 と、今さらあらすじを紹介する必要もないくらいの超ヒット作です。公開から何ヶ月経っても劇場はどこも満席状態でしたね〜。私が観に行ったのも公開からだいぶ経った後だったのですが、それでもけっこうな行列に並ぶはめになりました。
 その莫大な興行収入のみならず、ふだん映画を観ないような人たちまで劇場に足を運ばせたという点で、この作品が映画産業全体のてこ入れに大きく貢献した功績は大きいでしょうね。

 でも、私が観てみての感想としては……世間での盛り上がっているほどには、この作品は私の心に響いてこなかった、というのが正直なところです。

 何よりもまず、その大きな理由のひとつとして挙げられるのは、キャラクターの魅力が薄く感じられたことです。主役の二人以外の人物描写が紋切り型で厚みがなく、存在感が希薄に思えました。婚約者のキャロにしろ、ローズの母親にしろ、半ば記号化されたような単なる障害物のような描写しかされておらず、ドラマを盛りたてるのには不十分でした。主役二人にしても、ジャックとローズがごく短期間で何故にあれほど愛しあえたのか、そのお互いの魅力がどこにあるのかも表現しきれていなかったように思えます。容姿の良さに頼る部分が大きかったと言っても良いのではないでしょうか。ローズにとってジャックはむしろ「自由」の象徴であり、「束縛から開放してくれるもの」としての彼を求めた、それくらいのものだったのではないかとさえ思えてしまったんです。このため私は二人の「愛」に、今ひとつ感情移入することが出来ませんでした。

 ただそれでも、物語前半の二人の恋愛パートはなかなか楽しめたんですよ。「今のところは物足りないけど、これからどうなんだろう」と期待しながら観ていられましたし。
 ところがこの恋愛パートが私の中では消化不良のまま、物語は後半のタイタニック沈没パートに突入してしまいます。こうなるとこの沈没が長い。私としては、表面的なものでしかなかった恋愛がこれから深まっていくことを期待していたのに、恋愛の流れはここで止まってしまうわけです。正直言って、早く沈没シーン終わらないかなとも思ってました。

 仕方がないので他の人々に目を向けると、これがまたドラマ性が弱い。せっかく「タイタニックの沈没」という歴史的な事故を扱っているのだから、そこに乗り合わせていた多くの人々の重層的なドラマを期待するのですが、それがほとんどないんです。もちろん全くないわけではありません。乗組員が拳銃で……しちゃうところとか、老夫婦が……するところなどは(未見の方のために一応伏せました)、なかなか印象的なシーンだとは思うんですけど、それらにしても、そこに行きつくまでの彼らのキャラクター描写がなく結果だけ呈示されるから、今一つ盛り上がれないんですよね。

 結局、私の頭に二人の愛に対する疑念(というか欲求不満)を残したまま、物語は終局を迎えてしまいます。

 こうなってくると、「何故舞台がタイタニックでなくてはならなかったのか」ということにさえ疑問が生じてきてしまいます。物理的にも映画としての時間的にも最大級のこの大舞台は、「二人の愛」だけを語るには大き過ぎたように思えます。「二人の愛」を大舞台に充分なだけの濃度にするか、さもなければもっと様々なドラマを用意して物語としての全体のボリュームを増すか、いずれかであれば物語としてのバランスはずっと良くなったと思うのです。驚異の特撮で圧倒的に構築された、歴史に残る豪華客船の悲劇の上では、やはりそれに見合ったドラマが要求されるべきでしょう。この映画はドラマの構造がシンプルなだけに誰にでもわかりやすく、それゆえこの大ヒットにつながったんだろうとは思いますが、私には物足りなく思えてしまいました。

 もしかすると私はこの映画に少々過剰な期待を抱いていたのかもしれません。「ターミネーター」「エイリアン2」と、キャメロン監督作品にはかなり好きな物も多く、この作品にも少なからず期待していました。しかし、この異常とも思えるほどのあまりのヒットぶりに、「なんぼのもんじゃい〜」っていう気構えがあったことは否定できません。ただそれを踏まえても、この作品はやはり私にとっては魅力の足りない映画でした。熱心なファンが多数おられる映画ですし、そういった方々にはちょっと申し訳ないのですが、以上は私の個人的な感想としてご了承ください。

 観た人の話をいろいろ聞くと、この映画はおおむね女性の方に評判がいいみたいですね。ローズというキャラクターは、女性にとっては自己を投影しやすい存在なのかもしれません。ディカプリオはまるっきり王子様だしなあ。無理ないかも。  



(98.06.04)