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太陽を盗んだ男
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 ある日、いきなり強大な力を手に入れたら、人はどんな行動に出るだろう?
 この物語の主人公は、原爆の魅力に取り憑かれ、それを自らの手で作ってしまった高校教師。それをもって脅迫すれば、警察も政府もどんな要求でも呑んでくれる。しかし、昨日まで単なる教師でしかなかった主人公の想像力には、自ずと限界があったのだった……。

 この映画、最近になってニュープリント版のビデオが出たので、さっそく観てみました。

 確かに、パワーのある映画ではあります。一部でカルト的な人気になっているのも、まあ頷けます。
 なんというか、非常にナチュラルな形でイカレている映画なんですね。日本映画でもよく、意識的にワケわかんなさを演出した映画がありますが、そういうのとは違ってて、すごくパワフルな天然ボケというか。無茶苦茶な描写だらけなのに、どこまで本気でやってるのか、全く分からないのです。

 序盤、30分くらいかけて、原爆を作る過程がやたらリアルにじっくりじっくり描かれます。四畳一間みたいなアパートで。合間合間に缶ビ−ル飲みつつ、テレビとか観ながら。そういう、日常と非日常のコントラストが、まず不気味。
 そしてそういう悪魔的所業のバックに、なぜか妙に軽くて爽やかなBGMが流れ、不安感をさらに煽ります。いったいどこまでが演出なんでしょうか。

 そして原爆は完成し、主人公はこれを使って要求したいことをあれこれ考えるわけですが、しかし、やりたいことなど大して無いということにもすぐに気付いてしまいます。仕方がないので、ラジオ番組を通じて「原爆を持ったらやりたいこと」を募集しはじめる……。これ、演出の仕方によっては完全にギャグですよ。
 こういう調子でブラックジョークのような展開は止めどなく加速してゆきます。終盤なんてもう、その場で考えながら作ってんじゃないかと思うくらいデタラメです。なのに当事者たちは至って真面目。観客は混乱に陥りながらも、画面を見つめているほかありません。

 正直言ってこれをひとつのまとまった映画として評価するのは難しいし、どこに弱点があるとか指摘していくのもあまり意味がない気もします。ただ、観客に媚びず、それでいて過剰なほどサービス精神旺盛なこの映画にみなぎっているエネルギーが、他に類を見ない物であることだけは確かでしょう。私にはそれくらいしか言えません。



(02.07.05)