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スターシップ・トゥルーパーズ Starship Troopers
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 虫型エイリアン「アラクニド」と地球軍との激烈な闘いを描いたSFです。

 えーと。あちこちで言われてるとおり、これは物凄い馬鹿映画でしたー。バーホーベン監督、やりたい放題です。エメリッヒ監督の「ID4」も相当な馬鹿映画だったけど、こいつは強烈。笑えます。

 前提として、この映画の特撮技術ははっきりいって凄い。こんな凄いの見た事ないってくらい凄いです(この辺も「ID4」に通じてますね)。まったく「そこに居る」としか思えないようなリアルな蟲どもに加えて、撃沈される宇宙戦艦などの描写も圧倒的。技術的に高度なだけでなく、それを効果的に見せる構図や演出もうまいんですね。砦に追い詰められた主人公たちの隊長がふと砦の外を見た時に映る、大地を埋めつくすほどの大量の蟲たちの群れは壮観です。いやあ、SFXも進歩したものです……。

 が。肝心のストーリーが、もうデタラメなんですよ。半ば確信犯的なんじゃないかと思うくらいに。
 まずキャラクター描写がおざなりで魅力が感じられない。それゆえドラマなど成立してません。
 SF考証のいい加減さは、SFには疎い私でさえ、細かく突っ込みだしたらきりがないほどです。例えば序盤、敵エイリアンが地球めがけて、太陽系の外から隕石を落とすシーンがあるのですが、一体どうやったら出来るんだ、そんな事。光の速さで飛ばしても何万年もかかるぞ。隕石をワープでもさせたのか?

 だいたい人間たちも、ワープも出来る宇宙戦艦を持ってるくせに、いざ敵惑星上陸という時、戦闘機も戦車も使わず、どうしていきなり生身の歩兵で攻め込むんだ〜。このばかもの! で、あっけなく返り討ちにあってるし。そりゃそうだよ……。映画のコンセプトが「歩兵の活躍を描きたい」ということだというのはわかるけど、ちょっと無理がありすぎますね。

 私は未読ですが、この映画の原作である小説「宇宙の戦士」では、歩兵たちがパワードスーツというロボットのような強化服を着込んで闘う設定になっているそうです。それがたぶん戦車や飛行機の代わりになってるんでしょう。ところが今回の映画では、強化服の映像化までは困難だったためにこの設定をなくしてしまったそうな。だから無理が生じてしまってるんでしょうね。ここら辺、もう少しフォローが欲しかったところです。

 でも、そういう細かな考証って、この監督は多分まったく意識の外だったんだと思います。やりたかったことはひとつ、「戦争の愚かしさと、そこにおける歩兵たちの無残な死に様」! これですね。ちょっと見だと好戦的な映画にも思われそうですが、実際には監督の意向は、反戦映画とまではゆかなくとも厭戦映画を撮ることだったんだんじゃないでしょうか。見るからに胡散臭いコテコテのプロパガンダ映像も、演出のうちでしょう。で、そのテーマさえ描ければ、考証なんて大した問題じゃない。人間vs蟲の戦いの構図は、「戦争」というものを図式化するための手段に過ぎない。そういう非常に割り切った映画作りの姿勢が、この作品にはうかがえます。

 ところが悲しいかな、この映画における戦闘はゲーム的過ぎて、爽快感すらあり、「蟲の怖さ」は伝えられても「戦争の怖さ」を伝えるには至ってないんですね。厭戦映画として、これは致命的です。主人公も、ただ憎い敵だから倒す、という単純な動機だけで突っ走ります。スポーツと大差なく、戦争の意味やその業の深さに悩んだりすることはありません。結果として「反戦精神はあるが、戦争はカッコイイ」というチグハグさが生じ、考証のでたらめさも相まって、この映画は何とも笑いを誘う馬鹿SFになってしまってます。

 パワーは認めます。単純に映像絵巻として観る分には大いに楽しめるでしょう。でも、このストーリー軽視ぶりを認めるわけにはいかーん! こんな「観るだけ」の映画ばっかりじゃ困ってしまう。というわけで、本当は3点くらいの評価をしたいとこなんですが、映像の凄さで1点上乗せです。



(98.06.01)