Text - Movie


"Movie" Menu] ["All Movies"


この森で、天使はバスを降りた The Spitfire Grill
●●●●●●



 ある不幸な事件が元で服役していた若き娘パーシーは、新天地を求めてある田舎町に降り立つ。彼女はその持ち前の前向きな性格で町の人々と次第に打ち解けあい、さびれかけた町に逆に明るさをもたらす。しかし人々の中にはそれを妬み快く思わない者もいた。やがて、わずかな気持ちの行き違いから悲劇が起き、パーシーの過去の心の傷も明らかになってしまうが、その中で人々が知ったものは……。

 見終ったあと、豊かで暖かい気持ちでいっぱいになれる名品です。映像、音楽ともに素晴らしく、何より主人公パーシーを演じたアリソン・エリオットがすっごくいい。はすっぱな雰囲気でどこか冷めたような態度を取りながら、その実、人を愛することの暖かさ、人を失うことの哀しみを誰よりも知っているパーシーという女性を自然体で演じています。彼女はまだ新人の女優だそうですが、ちょっとジョディ・フォスターにも似た風貌で、これからの活躍が大いに期待できそうです。

 この映画の登場人物は皆、心のどこかに傷を抱えていて、町の雰囲気と同じように胸の中に寒風が吹いているような人ばかり。それがパーシーの登場で、失われた心の絆やよりどころを取り戻すきっかけを掴むわけです。その過程は暖かい善意に満ちていて、何とも心に染みます。物語終盤、大きな悲劇が起きますが、それでもラストは切なくも明るい希望に溢れています。それは町の人々が、失ってしまったもの欠けてしまったものをどういう形で取り戻せばよいのかを、パーシーから学び取ることができたからです。
 この、一人の人物の影響で人々が明るさを取り戻すという大筋は何となく「バグダッド・カフェ」を思い出させますが、この映画もそれとは形は違えど、負けず劣らず心を癒してくれる作品になっています。

 監督・脚本のリー・デビッド・ズートロフはこれが劇場初監督だということですが、とてもそうは思えないほどしっとりと落ち着いたタッチで、大画面を活かした郊外の美しい風景を交えながら、この心の物語を完成させています。決してインパクトの強い映画ではありませんが、心の大事な部分にずっと置いておきたくなるような、優しい味わいのある映画です。いいぞ。

 ところで、原題の「The Spitfire Grill」は舞台となる料理屋の名前そのままのタイトルなのですが、これに「この森で、天使はバスを降りた」という邦題を付けた人のセンスの素晴らしさは、称賛に値しますね。単なるカタカナ書きの意味不明タイトルが多い中で、こういうセンスある邦題なら個人的には大歓迎です。 



(98.06.02)