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シューティング・フィッシュ Shooting Fish
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 話術と悪知恵にだけは長けたディランと、メカおたくのジェズ。このコンビがあの手この手の詐欺の手口で、金持ちたちから大金をまんまとせしめてゆきます。孤児院育ちだった二人の夢であり目的なのは、自分たちだけの大豪邸を建てること! こんな二人に、バイトで雇った女のコ、ジョージィが絡んで、彼女も巻き込んだ綱渡りの冒険は、やがて思わぬ大ピンチを迎えることになる……。

 「トレインスポッティング」や「フル・モンティ」などのヒットでにわかに脚光を浴びているイギリス映画ですが、この映画もそんな中の一篇。お気楽でクールでポップな、いかにもイギリス製といった感じの良作コメディになっています。私もかなり笑えて、楽しめました。
 詐欺という犯罪を扱っていながら、この映画はまったく深刻なノリにはなりません。むしろハッピーな雰囲気が作品全体を包んでいるので、観ていて心地良く、見終った後の感触がいいんですね。
 これには、一つ大きな理由があります。正直言って、主人公たちの行なう詐欺の手口が、犯罪と呼ぶにはおよそ似つかわしくないほど非常に幼稚で稚拙なのです。「こんなんで引っ掛かる奴はいないよ」と突っ込みを入れたくなるほどです。
 例えば、物語冒頭、彼らが企業相手にプレゼンする新型パソコン。ユーザーの音声を完全に認識してキーボードいらず、というのが売りのマシンなのですが、今どき、単に音声認識するってことだけで売りになるのか? という疑問がまずあります。むしろ演算能力やグラフィック処理速度などの、コンピュータ本来の能力の方が気になるはずですよね。で結局、観客の誰もが想像するとおり、この音声認識自体も単純なトリックでしかないわけですが、これもまず疑わない方がおかしい。まあ、百歩譲ってここまではアリとしてもですね、プレゼンを受けたカモたちは、このパソコンの能力を盲信して、なんと即金前払いで購買予約をしてしまうんですよ。しかもあくまで予約だから現物は無し。これはいくらなんでもあり得ないでしょう。
 というわけで、そんな手口で騙そうとする方もアホなら、騙される方もアホ。だから観ていても、犯罪を犯しているという罪悪感はあまりありません。詐欺の映画としては鮮やかさに欠け、物足りないんですが、逆に物語のお気楽さを生み出すには成功していると思いました。こんなテキトーなやり方でも世の中渡っていける、という感じなのです。
 主人公である二人、ディランとジェズの描き方も良かったです。やってることは完全に私利私欲のための犯罪なんだけど、方法も目的も子供っぽいので憎めない。彼らにとっては詐欺という行為も、悪ガキの悪戯の延長線上に過ぎないという感じです。外向的なディランと内向的なジェズのデコボココンビぶりは笑えるし、そこに可愛くて機転の効く性格のジョージィが入って来て微妙な三角関係が生まれるあたりも、定番ですが楽しい。こうしたキャラクター造形がまた物語のお気楽ぶりを盛り上げてくれてました。
  全体的には小品ながらよくまとまった佳作です。理屈抜きでまさにお気楽に楽しめるので、万人にお薦めしたいですね。
 あえて難を言えば、なんだかんだ言っても彼らのやったことはやっぱり「犯罪」だった、ということかな。彼らに騙されるのは罪のない人たちだし、被害者もはっきり存在する。物語自体は主人公たちにとってハッピーな形で終わるんですが、彼らの被害者に対するフォローは結局最後までなく、そのため私には少し釈然としないものが残ってしまいました。そこだけが残念。

 ところで、この映画のタイトル「シューティング・フィッシュ」。「大物を釣り上げる」というような意味らしくて、もちろん詐欺のことを指しているわけで「釣り」とはまったく関係ありません。なのにエンディングのクレジットロールには、「この映画の製作において、一匹の魚も傷つけていません」というメッセージがあるんです(笑)。これって釣りや狩りを扱った映画でよく明記されるお約束ごとなんですよね(例えば「リバーランズ・スルーイット」とか)。こういう洒落っ気って好きです〜。
 そういえば別の映画で「一人の宇宙人も傷つけていません」っていうのもあったっけ……しかも「インディペンデンス・デイ」だったような気が(笑)。     



(98.06.22)