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千と千尋の神隠し
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 とにかくも、アニメーションの愉しみをたっぷり味わわせてくれる2時間でした。それが実際の上映時間よりもずっと長く感じられるほど、時間の流れが非常に濃密に思えたのです。
 圧倒的なイマジネーションをもとに、画面に隙なくぎっしり詰め込まれたガジェットとディテールの数々。それらひとつひとつの細かな動き、豊かな色彩。そういうものを目で追って味わっているだけで、まったく息つく暇がありません。実に濃い。
 あとはもう宮崎駿、お家芸&お得意技の連打連打連打。加速付いちゃう走り、粘液ドバーッ、山盛りの食い物、空中浮遊、なんでもありです。キャラクターたちもどこかで会ったような連中ばかり。宮崎アニメの集大成というかオールスターというか、そういった内容になっています。

 しかし、ストーリー面では不満が残ります。まず気になったのは、主人公である千尋が、自分の意思で行動の指針を決めることがほとんどないということです。大抵はアドバイザーがいて、あの場所へ行ってあれをやれ、そう指示されるままそこへ行くとまた、あの場所に行ってあれをやれ。行く先々でその繰り返しで行動しているに過ぎません。それが何とも、まるで一本道のコンピュータ・ゲームのようで、歯痒い感じがしてしまいました。彼女がはっきりとした意思を見せ始めるのは、終盤も押し迫ったころになってようやくのことです。
 まあ、まったくの異世界、しかも幼い女の子ですからその点は目をつぶるとして、それよりも問題なのは、そんな彼女の成長過程を今一つ描き切れていない点です。特に内面描写が弱い分、千尋という女の子がどういう性格なのかはっきりしないし、観ている側としては感情移入しきれず、彼女の冒険もどこか他人事として受けとめてしまいます。主人公としてキャラクター性に欠けるわけです。このアニメが好き、という人でも、たぶん、特に千尋が好き、という人はいないんじゃないでしょうか。もっとも、主人公像が弱いっていうのは、宮崎アニメに共通する弱点かもしれませんが、考えてみれば。
 それから、気になったのは音楽です。工夫が足りないように思えました。メロディに今までのような新鮮味や意外性を感じないし、単純に音楽過剰と思える部分もありました。

 この作品では、『もののけ姫』などで見られたようなストレートなメッセージ性は影を潜め、あちこちに暗喩と姿を変えて溶け込んでいます。しかしその代わり胸に訴えてくるようなものも薄く、かといって『カリオストロ』や『ラピュタ』のような純粋な活劇としては爽快感に欠けるような、中途半端な感触がすることは否めません。アニメーションの凄さには終始圧倒されるけども、ストーリー的には物足りなさを感じてしまう、そんな印象の作品でした。



(01.12.08)