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レクイエム・フォー・ドリーム Requiem for a Dream
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「うわっ、終わっちゃったよ!」
 スタッフロールが流れてきた時、私の口からは思わずそんな言葉が漏れました。

 麻薬の怖さをテーマにしたこの映画で描かれているのは、ごく平凡な――というと多少語弊がありますが――一市民です。青年、その彼女、そして友人。この3人組が、麻薬の魅力に取り憑かれ、次第次第に深みにはまってゆくわけです。
 それに平行して、なぜかTV出演に必死になる母親の姿も描かれますが、これがどう関係してくるのかはご覧になってみるのがいいかと思います。なかなかショッキングですよ。この母親を演じたエレン・バースティンという人、どこかで見たことがあると思ったら、私が好きな映画『この森で、天使はバスを降りた』でも似た感じの母親を演っていた方でした。おかげで余計に生っぽさがアップして嫌な感じだったなあ。

 細かいカット割りを多用した独特のテンポ、そして生々しく悪意に満ちた人間描写で、有無を言わさず観る者を引き込む演出と映像の力は相当のものだと思います。
 麻薬によって、本人が気付かないうちに心や感情が壊れてゆく恐ろしさ。そうした過程を体現した役者たちの演技もお見事です。
 しかし――

(以下、枠内ネタバレ。反転してご覧下さい)

 この作品で問題なのは、「はい、この通り、ヤクは怖いですね」という正にその時点で物語が終わってしまうことです。登場人物たちが墜ちるだけ墜ちた姿を描いて、果たしてそれからどうなるのかと思っていたら、そこで終わり。ええ〜? ……と、冒頭に書いた私の台詞に繋がってゆくわけですが。
 麻薬の怖さを単に伝えるだけなら、別にドキュメンタリーフィルムでもできることです。というか、怖いこと自体はみんなが知ってます。それを物語として昇華させるなら、墜ちたその先にこそ、何かひねった展開を見せるべきところでしょう。この映画にはそれがない。だから、問題そのものを丸投げな印象さえ受けてしまいます。

 それと気になったのは、中毒者が見る“悪夢”が類型的に思えたこと。例えば、テレビと現実の区別が付かなくなって、テレビの出演者が部屋の中にやってきてしまう……なんてのは、悪夢の表現としては陳腐に過ぎる気がします。そのあたりのセンスはこの監督はあまりないようですね。
 あと細かいことだけど、今どき、本人の署名だけで電気ショック療法なんてやったりしませんよ……。もっとも考えてみれば、あの映画の時代背景っていつのことだかはっきりしませんけど。

(以上)



(02.05.23)