Text - Movie


"Movie" Menu] ["All Movies"


鬼が来た!
 Devils on the Doorstep / During That War 鬼子來了
●●●●●



 ストーリー、映像、役者の演技など、見所が多く、かなり面白い作品でした。
 しかし、いろいろな意味で納得のゆかない作品でもあり、自分の中で今ひとつ評価が定まらずにいます。その納得のゆかなさが、作品の舌足らずさに起因するのか、単に自分の無理解によるものなのかも判然としません。ただひとつ言えるのは、鑑賞後に、うーむと唸って考え込んでしまう作品であることは間違いないということです。

 1945年、日本軍の支配下にある中国のとある村。そこに住む男・マーが突然、刃物を突きつけられる。相手は顔も見せず、名も名乗らぬまま、袋詰めにされた二人の日本人を押しつけてくる。
「しばらく預ける。日本軍にはバレないようにしろ。何かあったら村人ごと皆殺しだ」
 日本人は、日本軍の軍曹と、その通訳だった。「生き恥をさらしたくない、早く殺せ」とわめき続ける軍曹だったが、そうするわけにもゆかず、仕方なく村人は二人を隠して世話を続けた。
 しかし約束の期日を過ぎても、なぜか引き取りにやってくる気配がない。村人と軍曹の関係にも変化が生じ始めるが……。

 戦争を題材にした作品のわりに、この映画は、笑いを交えたのどかなタッチで綴られていきます。日本人の軍曹と中国人の村人、お互い言葉が通じない状況を利用したギャグの絶妙な“間”は、かなり日本人好みのはず。こんなに笑える映画だとは思っていなかったので、ちょっと驚きました。勢いばかりが空回りする軍曹を香川照之が熱演しており、非常にいい味を出しています。
 また、日本軍のフェアな描かれ方にも感心しました。中国人監督が中国で作った映画でありながら、侵略者である日本兵たちを、必要以上に悪意や偏見で歪めることなく、あくまで血の通った人間として描写していたと思います。台詞回しなどもいきいきとしていて実に自然でした。

 しかし、終盤になって、大きな悲劇が生まれます。それまでのユーモラスな雰囲気とのギャップもあって、かなりショッキングな印象を受けることでしょう。というより、そのギャップこそが、この映画のキモなのかも知れません。軍隊の不条理と戦争の悲劇性を目の当たりにし、タイトルの「鬼」の意味を知って、多くの人が戦慄すると思います。

 ただ、ここが私の一番納得のいかないところでもあるのです。つまり、『戦争の悲劇性』という大きなテーマを最終的に描くにしては、謎めいた導入部が魅力的すぎるのではないか……ということ。逆に言うと、せっかく出だしのアイデアは面白いのに、それを上手く消化しきれず、『戦争の悲劇性』という、言ってしまえばありきたりなテーマに着地してしまっていることに、肩透かしともいえる印象を受けてしまったのです。

 戦争の中で人を殺すということは、今さら言うまでもなく悲惨極まりないことであって、そこから目を背けずに考えなければならないことでもあります。
 しかし、一本の映画として成立させるには、その『悲惨』という出来事だけをただ観客に突きつけてもあまり意味はありません。その映画なりの独自のメッセージ性なり解釈なりを付与して初めて『映画』として成立するわけです。
 その点でこの作品は、いろいろな試みをしてはいるものの、序盤のミステリー、前半のヒューマニティー溢れるお笑い、後半の悲劇、そういった個々の要素がまとまりきっていない感があります。見終わった後にうーむと考えさせられてしまうのは、単にテーマの重さのせいだけではなく、そうした構成のバラバラさからくる混乱を、受け手が解釈しきれないからかも知れません。



(02.06.27)