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マルコヴィッチの穴 Being John Malkovich
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 操り人形が生き甲斐のさえない中年男が、食い扶持を稼ぐために就職した会社で、奇妙なものを発見する。一見、壁に空いた穴にしか見えないそれは、実は俳優のジョン・マルコヴィッチの脳内に侵入できるという異界のトンネルだったのだ。主人公が会社で出会った謎めいた女や、主人公の妻なども巻き込んで、『穴』をめぐる奇妙な物語が展開してゆく。

 画面のあちこちから作り手の含み笑いが聞こえてくるような、なんとも人を食った、たくらみに満ちたお話です。
 些細なきっかけから話がどんどん膨らんで、収拾がつかなくなっていってしまうというこのパターンのコメディが、私はもともと好みです。実際この映画でも、特に序盤、すっとぼけた不条理ギャグが連発されるあたりは、かなりツボに来るものがありました。

 それで、おお、これは久々に「当たり」のコメディかな、と期待しつつ観ていたんですが……。
 中盤以降、人間関係が複雑になっていくにつれて、ほとんど笑えない展開になってきてしまうんです、これが。複雑になることで、ナンセンスなかたちで人々が右往左往するならいいんですが、この映画はそうじゃない。なぜか次第に、妙に生臭くシリアスなテーマが全面に出るようになってくるんですね。例えばそれは、性的な倫理観であるとか、あるいは生死観、人としてのアイデンティティの有りようなどといったものなのですが、これがドロドロと生々しすぎて、一向に笑いへと転化されてゆかないのです。
 作り手側はもちろん、そこからシニカルな滑稽さを出そうとしていたのでしょうが、残念ながら私にそうは受け取れませんでした。

 せっかくの奇想天外なアイデアがありながら、コメディとして成立しきれておらず、かといって、先に挙げたような深遠な話題についても何ら答えを示していない。結果として、観終わったあとにこう言わざるを得ないわけです――結局なにが言いたかったんだこの映画は、と。

 キレのいい映像センスには見るべき所が多々ありましたし、変人揃いの人物造形もなかなかのもの。それだけに、このどっちつかずの仕上がりは、いかにも勿体ない気がしてしまいます。いっそ序盤そのままの勢いで、終始コメディタッチで貫き通してくれちゃった方が、もっとずっと楽しめる作品になったんじゃないかなあ。それでも充分ブラックなコメディたりえたはずだし。



(01.04.20)