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ミュージック・オブ・ハート Music of the Heart
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 夫に捨てられ、子供二人を抱えて暮らす、ミドルエイジのシングルマザーが主人公。彼女は生活費を得るため、特技を活かして、小学生を対象としたバイオリン教室の教師を始めることにする。だが、スラム街の学校だということや、バイオリンそのものに対する様々な偏見などから、不当な紆余曲折を余儀なくされてしまう。しかし、初めはいやいや習っていた子どもたちも、次第にバイオリンの魅力に目覚めはじめ、やがて――

 何よりまず、主人公を演じたメリル・ストリープが抜群の存在感を見せてくれます。もう『オバサン』をも通り越した年齢のはずなのに、とにかく終始イキイキはつらつと表情豊かで、すっごくチャーミングなのです。この映画の魅力はそのまま彼女の魅力でもある、と言ってもいいくらいでしょう。

 ただ、物語全体を俯瞰してみると、ドラマとしての盛り上がりにはやや欠けているような感じがしてしまいました。主人公を支える人々との関わり合いの描写が今ひとつ淡白なためか、個々のエピソードが小間切れになってしまっているのです。結果として、クライマックスであるはずの場面になってもあまり大きなカタルシスが生まれず、観終わったあとも、「普通にいい映画だった」くらいの印象しか残らないんですね。せっかく音楽を題材にしている映画なのにカタルシス不足というのは、なんとも勿体ない。
 主人公ばかりが目立っているこの映画ですが、脇の人たちの事も、もう少し掘り下げて描いてみて欲しかったところです。何しろ、いつの間にか居なくなったり、その場限りだったりといったキャラクターばかりだったので。それじゃ物語に流れが生まれないのも当然です。

 この映画はもともと、実話をベースに作られた作品だとのこと。だから物語も、あまりドラマチックに改変出来なかったのかも知れません。でもだからといって、それは言い訳や隠れミノにはならないはずです。私たちはあくまで『映画』を観たいのであって、それが実話ベ−スかそうでないかは、基本的に関係のないことなのですから。実話であることの素晴らしさに感動したいのであれば、初めから実話そのもののドキュメンタリーでも観た方が確実でしょう。映画は映画として、それ単体で成立していてほしいんですよね。

 とはいえ、善意に満ちた『いい映画』として、水準をクリアしてることは確かです。毒のない暖かい感動を味わいたい、という人なら、とりあえず観てみて損はない作品の部類に入るのではないでしょうか。



(01.07.01)