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リトル・ダンサー Billy Elliot
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 炭坑の閉鎖問題に揺れる小さな街で、ある11歳の少年が、ふとしたことからバレエの魅力に目覚めた。彼の素質をほどなく見抜いたバレエ教師は、無料でも構わないからと、彼に個人レッスンを施すようになる。みるみるうちに上達してゆく少年。しかし、「バレエなんて女の子のするもの」という周囲の偏見は大きく、ことに、父親の反発は激しいものだった……。

 事前の評判から、「これはモロに俺好みの映画だな」と半ば確信していたのですが、まさしく大当たり。観た後に実に心地よい余韻に浸れる、暖かく、そして熱い物語でした。

 まずは何をおいても、少年のダンスシーンが圧巻です。これがもう猛烈にカッコイイ! 短期間の練習で上達しすぎじゃないのかという声も聞こえてきそうですが、それはそれ。とにかくこのシーンだけでも一見の価値は大ありです。主人公を演じた少年はこの映画のためにオーディションで選ばれた全くの新人ですが、ダンスには幼少の頃から親しんでいたそうな。てっきり吹き替えだとばかり思っていた劇中のダンス、彼の実際の力だったんですねえ。いやいや、お見それいたしました。
 少年を囲む家族や友人たちといった脇役陣も、それぞれにいい味を出して、物語の雰囲気を盛り立てていました。なかでも私のお気に入りは、先生役の女性です。太っちょの中年女性で、ぶっきらぼうに煙草をふかしながらレッスンする姿は一見投げやりっぽく映るのですが、実は情にあつく懐も深いという人間像を、存在感たっぷりに演じていました(ちなみに、このジュリー・ウォルタースという女優さんは、日本ではあまり馴染みのない人ですが、今度映画化される『ハリー・ポッターと賢者の石』にも出演しているとか。チェック、チェック)。

 物語の骨格そのものはいわゆる王道を行くもので、いろいろ苦難はありながらも最後はハッピーエンド、という類の話だということはすぐに読めます。そのおかげで、安心して観ていられる良心的な作品に仕上がっていたと思います。

 ですが反面、その安心さが、やや物足りなさに繋がっている部分も少なからずありました。散りばめられたエピソード群のいくつかが、もう一つ踏み込みの浅いものに終わっていると感じてしまったのです。例えば、少年がなぜバレエという突飛なものに惹かれたのか、その動機付けとなるものをもう少ししっかり描いて欲しかった。また、少年の友人が実はゲイだった、というすごく興味深い設定を、実際にはちょっとした味付け程度にしか扱っていなかったところも不満といえば不満。もうひとひねりあれば、もっと切ないエピソードに昇華させることもできたはずなのに、勿体ない感じさえします(しかも本編じゃ、せっかくのその設定をラストでギャグにしちゃってるし……)。そういったあたりが少し残念でした。

 とはいえ、そういった細かな疵(きず)を吹き飛ばすほどに、この映画は前向きでみずみずしいエネルギーに満ちています。観る人全てに元気とチカラと感動とを与えてくれるこの秀作、見逃す手はないですぞ。



(01.03.18)