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ザ・ハリケーン The Harricane
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 バーを襲撃し殺人を犯した罪で終身刑に課せられた黒人ボクサー、ルービン・カーター。“ハリケーン”の異名をとっていた彼は、一貫して無罪を主張し続けるが、再審請求はことごとく却下されてしまう。しかしやがて、彼の獄中記を読んで激しく心動かされた黒人青年が、ルービンの無罪を勝ち取るため、事件の再検討に動き出す。

 いろんな意味で重い映画です。テーマそのものの重さもありますが、それ以前の問題として、演出のキレが悪いため、今ひとつメリハリに欠け、長い上映時間を余計に長く感じさせてしまっているのです。重いというより鈍いと言うべきでしょうか。この鈍さを、制作側がどうも重厚さと勘違いしているような節があります。もう少しぜい肉をそぎ落とせば、もっとずっとスマートに感動を伝えられる作品たり得たことでしょう。

 実話がベースになっている映画というのはどうも、物語に注文を付けるのが難しい。伏線がどうだの、キャラクター造形が弱いだのと言ったところで、実際こういうハナシだったんだから仕方ないと言われてしまえばそれまで、といった面が少なからずあるからです。でも観客側としては、ともかく映画として面白いことを求めているのですから、実話であることを逃げ道に使って欲しくはありません。
 この作品の場合はそこまで露骨ではないとはいえ、やはりどこか物語性というものを拒んでいる面があるように感じられます。シーンごとに見れば緊張感も迫力もあるのですが、いかんせんそれらを繋ぐ骨格が弱い。なのでラストのカタルシスへと結びついてゆかないのです。

 知性派で正義漢の黒人像を演じさせたら一級であるデンゼル・ワシントンの素晴らしさは、この映画でも十二分に発揮されています。数十年に及ぶ獄中生活の重みを体現した演技はまさに見事の一言。しかし逆に言うとこの映画は、脇役陣の薄さもあって彼ばかりが際立っており、他にあまり見るべき所がありません。やはりもうひとひねり、「映画として」面白くなるべく、工夫の欲しかったところです。



(01.09.20)