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フェイス/オフ Face/Off
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 顔が入れ代わってしまった二人の男が、互いの信念とアイデンティティを賭けて激突する、体中の血が沸騰するほどに熱い熱い、至高の男のドラマです!
 これは最高です。もうたまりません。身が震えるほど興奮させてくれ、そして熱い涙を流させてくれました。今までに見たどんな映画よりも最強にカッコ良く、そして男泣きのシチュエーションに満ちている作品です。男ならこれで感動しなくちゃ嘘です。絶対観なきゃダメ!
 お互いに憎みあう同士が、「顔の交換」という異常な状況下に置かれた時、純粋な「敵」としか見ていなかったはずの相手の真の姿が浮かび上がってくる。「人間」を見てしまう。それによる葛藤と、顔と共に見失ってしまった「自分の真の姿」の探求、その狭間で二人は苦悩する。だが曲げられない信念ゆえに避けえない、対決の宿命の渦が男たちを、そして周囲の人間たちをも巻き込んでゆく……
 ジョン・ウー監督の目指す「男の美学」が、この映画では素晴らしく高い水準で結実しています。舞台、構図、小道具など、とにかくあらゆる事がスタイリッシュにキマっているんです。それも見せかけだけのものなどではなく、しっかりとした骨のある格好良さなのです。その中に男たちの信条や信念が垣間見えてくるような、そんな演出が実にうまい。
 その監督の手腕に対し、俳優たちも素晴らしい演技で応えています。主役二人を演じるニコラス・ケイジとジョン・トラボルタ、この二人は見事な演技で、「顔の入れ替わり」をまったく違和感なく見せてくれます。外見は違っても中身は同じ人だということに説得力がなければ、この映画は成立しません。二つのまったく別の性格を演じ分けるだけでなく、同じキャラクターを二人で演じる、という必要もあったわけですが、ケイジとトラボルタはそんな難しい役を文句なしに演じ切っていました。まったく見事というほかありません。
 わけてもケイジの演技の素晴らしさは特筆ものです。息子を殺した、誰よりも憎い相手の顔を持つことになってしまった男の身悶えするほどの苦しみが、彼の抑制の効いた演技によって、見る者の心にひしひしと伝わってくるのです。苦悩する役を得意とする彼のさすがの技です。
 脇を固める俳優陣もみな充分に個性を発揮して、存在感をアピールしています。なかでも、トラボルタの妻を演じたジョアン・アレンが良いです。顔が変わってしまったトラボルタとの、本当の夫婦の信頼を確かめあうシーンは、彼女の演技あってこそのものでしょう。
 ただ残念ながら、ストーリーや設定に関しては手放しで褒めることはできません。正直に言えば、それらを冷静に見た場合、穴や欠点はいくつも指摘できてしまうのが事実です。そもそも「顔の交換」という設定自体がリアリティに欠けていますし、序盤の刑務所脱出のシーンなどではプロットの安易さも感じられます。
 それでも、それらの弱点を軽く吹き飛ばすような圧倒的なドラマのパワーが、この映画にはあるんです。実際にそれを味わってしまえば、設定の荒唐無稽さなど些事に過ぎないことがわかるはずです。だいたいこの映画を「冷静に見る」って事自体、かなり難しい注文だと思いますしね。私にはできません、そんな無理な事。
 演出、ドラマ、俳優、アクション、全てが高い次元で融合したこの作品の、「男のドラマ」としての完成度は比類なきものです。香港時代から一貫したテーマで映画を撮りつづけてきたジョン・ウー監督が、ハリウッドに移って3作目にして、ようやく実力の全てを出し切った傑作を生み出したといえるのではないでしょうか。
 うーん、こうやって作品について書いてるだけで、また体がカッカしてきちゃいましたよ。私はこの映画を観終わった直後、我慢できなくて、友達に電話しまくって薦めまくりました。この文章を読んで下さったかたには、少なくとも私のそんな興奮ぶりだけは感じ取ってもらえたんじゃないでしょうか。
 とにかく、熱い気持ちを味わいたいなら、男泣きにうち震えたいなら、この映画を逃す手は絶対にない! 観るべし、観るべし! うおー、私も無茶苦茶観たくなってきた〜っ!



(98.06.05)