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エネミー・オブ・アメリカ Enemy of the States
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 観ている間はそれなりに面白いけど、観終わった後に何も残らない。そんな作品に時として出会うものですが、これはまさにその典型のような映画でした。

 あらぬ疑いをかけられた男が、ひたすら追いかけられて、逃げまくる。大ざっぱにいえばそれだけの話です。しかし、スピーディーな展開と緊迫感のある演出で、まずは観客を最後まで退屈させないことには成功しているといえるでしょう。
 なのにこの映画は、観終わった後、さっぱり印象に残るものがないのです。あの傑作『クリムゾン・タイド』を撮ったトニー・スコット監督作品ということで、私自身はこの映画にかなり期待していただけに、余計に肩すかしをくらってしまった気分でした。
 それはおそらく、いい意味でも悪い意味でも、「この映画ならでは」という部分が作品中に見当たらないためでしょう。サスペンス・アクション映画としてあまりにも無難に丁寧に作りすぎてしまったため、逆に、とんがった所がどこにもない、平凡な映画になってしまっているんですね。
 俳優の演技にしても同様のことがいえます。ウィル・スミスにしろジーン・ハックマンにしろ、本来はクセの強い、画面にいるだけで存在感が出てしまうような俳優のはず。ところがこの作品では、彼らのそういった持ち味はすっかり抑えられてしまっている、もっといえば、殺されてしまっている。だから極端な話、他の俳優でもじゅうぶん代用が利いてしまうんじゃないかとすら感じてしまうほどなのです。

 いろいろ考えていくと、やはり全ては、脚本の練り込みの甘さに端を発しているように思えてきます。人物造形にもう少し工夫をするなり、ストーリー展開にもう少しひねりを加えるなりするだけで、この映画はもっとずっと面白くなったと思うのです。映画を構成する各要素の材料そのものは贅沢に用意されているわけですからね。なんとももったいない出来上がりの作品でした。



(00.06.26)