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エル・スール −南− El Sur
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 スペインのとある町に住んでいた少女、エストレリャ。温かい家庭の中、両親の愛情に包まれて暮らしていた彼女だったが、ある日、父親が封筒に書き付けていたものが目に留まる。それは彼女も母親さえも知らぬ、女性の名前だった。少女としての好奇心でその名前の意味を追っていくうち、やがて彼女は、父親が胸に秘めていた想いを知る……。

 穏やかで繊細なタッチで、親子の絆を描いた作品です。
 美しい田園光景の中でも、密かにひび割れてゆく家族がある。遠くの地に置いてきたつもりの想いでも、長い年月を越えてくすぶり続け、いつの日か再び灯をともすこともある。そうした、描写の方法によっては生臭くもなりそうな話を、少女エストレリャの視点を通して描くことによって、独特の涼やかな空気感のある作品に仕上げており、秀逸です。
 猛烈に眠かった『ミツバチのささやき』に比べると、同じ監督の作品ではあっても、こちらのほうがずっと人間の生の感情が伝わってくるためか、最後まで惹き付けられて観ていることができました。

 ラストが唐突な感じがして面食らったのですが、これは実際に予算不足のため、未完のような形で終わってしまったからだそうです。なるほど。
 少女役の子役を、劇中の成長に合わせて二人使っているのですが、全く違和感がないのがすごい。本当に成長しているようさえ見えました。



(02.05.05)