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ディアボロス/悪魔の扉 Devil's Advocate
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 常勝無敗の敏腕弁護士が、ある法律事務所から破格の待遇で誘いを受ける。しかしその事務所のトップにいたのは、彼を偽善と虚栄の快楽に引き込もうとする悪魔だった、というお話。
 悪魔を演じるアル・パチーノ目当てに観に行きました。最近の彼は演技は上手いけどワンパターンだとか派手なだけだとか、いろいろ言われてるみたいで、その辺は私もわりと同感なんですけど、でも好きです〜。私にとって彼の演技は一種の痛快なパフォーマンスみたいなものです。映画を支配するようなあの独特の強烈な存在感とエキセントリックな演技は、彼ならではのものですからね。
 で、この映画ではどうだったかというと、予想通り、アルは人の顔をした悪魔にバッチリはまってました。すごく楽しげに演じているのが伝わってくるんですね。ただそこにいるだけでもただならぬ雰囲気を漂わせてますし、クライマックス、主人公に対して悪の素晴らしさについて大演説をぶつシーン、ここなどはもうアルの独壇場です。圧倒的な迫力と説得力です。私などは、こんな悪魔に誘惑されたら一撃で参ってしまうだろうなと思ってしまうほどでした。これが観たくて来たんだよぉ、うんうん。
 ただ残念ながら、この映画そのものの出来は良くありませんでした。
 根本的なところで、主人公を演じるキアヌ・リーブス、これがだめ。はっきり言ってミスキャストじゃないかなー。だって、いくら彼が無敵のエリート弁護士だって言われたって、全然そういう風に見えないんですから。彼の容貌や演技からは誠実さや真面目さはうかがえても、肝心の「知性」が感じられないんですね。だから彼が「スピード」で演じた、行動あるのみのレスキュー隊員のような役ならともかく、頭脳が武器の敏腕弁護士という設定そのものに説得力を持たせられていない。良く見てもせいぜい人のいい、普通の青年弁護士といったところでしょうか。これでは悪魔には勝てませんよ。まして相手はアルが強烈に演じてる悪魔なわけだし。そういったところで、私はまず気持ちが入っていけませんでした。
 物語の構成もまずかったですね。もともと上映時間が2時間以上と長い上に、アルが悪魔だって発覚するまでに話を引っ張りすぎの感がありました。もう観客はみんな前知識としてアルが悪魔だってことを知っちゃってるから、それになかなか気付かないキアヌがもどかしくて仕方なかったです。
 もっと問題なのは、テーマがあやふやになってしまっていることです。本来、善の意識のもとで働くべき弁護士という職業が、悪にそそのかされて、ただ裁判に勝つためだけに働くようになってしまう。白と黒の狭間で、真実を貫くか、それともあくまで勝利を求めるか。これは一種、人間の尊厳を守る戦いでもあると思うんです。ここをもっと突っ込んで描けば話に深みが出たんじゃないかと思うんですけど、中盤から悪魔の標的がどうしたわけか主人公の妻の方にも行ってしまったため、話の流れが「尊厳を守れ」ではなく、心を病んだ「妻を守れ」という、非常に個人的な方向に向かってしまいました。その結果、ラストでの主人公と悪魔の対決の構図が、ひどく単純なものになってしまったという感じがします。
 結局、アル以外にあまり見所のない映画でした。むしろ最近のアルの芸が見たいなら「セント・オブ・ウーマン」とか観てれば充分という気さえします(個人的には「セント〜」もあまり好きな映画じゃないのですが)。
 ただ、主人公の妻を演じたチャーリズ・セロンはなかなかの熱演でした。雑な感じの女性から急に清楚な雰囲気になってみたり、ノイローゼを患ってみたりと、様々な面を見せてくれてました。キアヌも彼女の演技にかなり助けられてた感じですね。
 この映画も、よく考えたって感じの邦題ですな。直訳だと「悪魔の弁護士」! うーん、悪くないと思うんだけどね〜(ほんとかよ)。



(98.06.02)