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サイダーハウス・ルール Cider House Rules
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 のっけから横道にそれるようで恐縮ですが……それにしても、この邦題はもうちょっと何とかならなかったんでしょうか。原題を音読みしただけのこの邦題、聞いただけでは、意味もわからなければ内容の想像もつかない人がほとんどのはず(もちろん私も含めて)。
 細かいことのようですけど、私の好きなあの映画やあの映画が『オクトーバー・スカイ』だとか『スピットファイア・グリル』だとかって邦題で公開されてたらって想像すると、こんな事もつい考えてしまうわけです。こういうことって集客力にも少なからず影響するはずだから、ものが良い映画なだけになおさら、もったいない感じがしちゃいますね。事実、興行的には苦戦していると聞きましたし。
 ちなみに先に挙げた2つの映画、どちらもこのページで紹介してる作品ですよん。

 さて本題ですが、この映画は、実に丁寧に作られた良作のドラマです。
 人が生きてゆくこと・人と交わってゆくことの素晴らしさと哀しさを、残酷さや罪深さをも内包させつつ、暖かく静かに、そしてあくまでもドライに描いてゆきます。観終わった後、映画のそこかしこに散りばめられたメッセージを反芻しているうち、何ともいえない余韻を心に残してくれるような、そんな作品になっています。
 それでいて、難解でもなく説教じみてもいないところがまた、この作品のいいところですね。文学的な頭で構えて観る必要はまったくなく、ただ素直に感動させてくれ、泣かせてもくれます。田園風景を美しく描いた映像も素晴らしく、俳優陣もまた、それぞれの持ち味を生かした演技で、存在感を十二分に発揮してくれていました。

 ただ難を挙げるとすれば、多彩なキャラクターにそれぞれ細かなエピソードが用意されているにもかかわらず、そのいくつかが、未消化あるいは未解決のまま終わってしまっていることですね。あの人とあの人はその後どうなったの? とか、あの人は結局あれで良かったの? といった疑問が鑑賞後にウヤムヤのまま残るため、ややもするとプロット自体が散漫のように受け取られかねないのです。もちろん、何もかもを語り切ることが映画の全てではないでしょうから、こういった形態も『あり』なのでしょうが、私としてはもう一歩踏み込んだ形の答えを用意して欲しかったようにも思います。
 また、これはあくまで個人的な印象かもしれませんが……ヒロインを演じたシャーリズ・セロンが、ちょっと“絵的に”綺麗すぎる感じがしてしまったんです。いや、綺麗であること自体は一向に構わないのですが、そのために、人としての現実感にやや欠ける感があり、生々しい現実をこそ描いたこの映画の中では、その存在が浮いているように思えてしまったんですね。もう少し『庶民的な美人』を選んだほうが、この作品には合ったんじゃないでしょうか。

 とはいえ、『人のために生きる事』の意味を、爽やかなタッチで、かつ、じっくりと問い掛けてくるこの作品。一見の価値は大アリですよ。たくさんの人に観てみて欲しいな。



(00.07.22)