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バトル・ロワイアル
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 公開前からいろいろと世論を賑わせてくれていた本作。原作である小説も、以前からずいぶん評判になっていて、私も読もう読もうと思ってはいたんですが……結局は、未読のまま映画版に相対することになりました。以下、原作を読まない上での感想になりますのでご了承を。

 さて、中学生一クラスを孤島に閉じ込め、最後の一人になるまで殺し合いをさせるというこの物語。この、中学生同士が殺し合うという過激な設定が若者に悪影響を及ぼす恐れあり、ということで取り沙汰されていたようなのですが……。私にはこれがそんなにヤバい映画だとは思えませんでした。少なくとも映画版を観た限りでは、ですが。
 確かにこの映画では多くの残酷シーンが描かれています。しかし、だからといって暴力を肯定しているわけでも、ましてや奨励しているわけでもありません。むしろ、無為に傷付け合い殺し合うことの悲惨さや虚しさを訴えかけることこそが、この物語の主題になっていると感じました。ヤバくないと先に書いたのはそういう理由からです。私に言わせれば、逆に中学生にこそ、この映画を観てみて欲しいくらいですよ(……って、それはさすがに言い過ぎか)。

 ヤバくないからといって、イコールつまらないということでは決してありません。それどころか、キレのある演出とスピーディな展開で、ラストまでほとんど退屈することなく楽しませてくれる作品に仕上げられています。すでに齢70を超す老齢でありながら、これだけテンポの良いアクション映画を撮ることが出来てしまう深作監督の手腕には感服させられるばかりです。

 とはいえ、手放しで面白かったと褒めるわけにゆかない点も、いくつかあります。
 まず、登場人物一人ひとりの個性や存在感が今ひとつ希薄なこと。クラスの人数が多いから、というのは、厳しいようですが言い訳にはなりません。実際に劇中で行動を起こしていたのは一部の生徒だけですし、そのくらいの人数なら十分なインパクトをもって描き分けることが出来たはずです。さんざん思わせぶりな伏線を張っておいて、結局あっけなく死んでしまう生徒が多かったのも気になりました。一体あいつは何をやりたかったんだ、と思わせられることもしばしばでしたから。
 もうひとつ難点として言えるのは、この映画のスタンスがどこか中途半端であること、です。
 中学生の殺し合いというスキャンダラスなテーマを扱っていながら、この映画が単純にヤバいものになっていないのは、極限状態の中でも人間らしさを捨てず、人の心の交流があることをちゃんと描いているからなのですが……それにしては、そうした描写の踏み込みが浅い気がしてしまったのです。
 ハードな設定を和らげるためにウェットな要素を含ませた意図は理解できます。しかしそれならば、表層を舐めるだけでなく、もっと心理描写を克明に描いて欲しかった。でなければ逆にそうした部分をいっさい排除し、せっかく用意された過激な設定を生かし切るつもりで、徹底的にドライに殺し合いを描いて欲しかった。結果として、ウェットともドライとも取れないどっち付かずな印象の作品となってしまっているのが、私には何とももったいなく思えます。

 と、いろいろ文句も書きましたが、この映画がサスペンスアクションとして、充分に水準をクリアしているのは事実。この作品を一つの礎として、このジャンルでの邦画のレベルが底上げされるのを期待することにしましょう。
 ……でも、「今度は小学生だ!」とかゆーのはさすがにご勘弁……。



(01.01.29)